体の痛みは健康状態だけが原因とは限らない エリート男性の人生を台無しにした「隠れ病」
男性は3回目の診察時にも、体の痛みは酷いままだと話していた。聞けば、「外に出て何かしたほうがいいと言われたので、前から興味があった1泊のキャンプでの海釣りツアーに参加したら体を壊した」という。
筆者はふと思った。
「これは一体どういうことなのか。なぜ、適切に対応できないのだろうか」
ペインクリニックで患者を診るときには、身体の状態だけでなく、心理社会的な要因も考慮する。その際、別の診療科を専門とする医師とも話し合うことがある。この男性についても、精神科医や臨床心理士に相談した。
すると、発達障害の可能性を指摘された。筆者が男性に紹介したリハビリテーション科の理学療法士からも、運動療法を自分勝手に解釈してほとんど指示に従っていない、と報告が上がっていた。
営業好成績でも発達障害の可能性はある
そこで、男性が慢性痛になっていく経過をもう一度詳細に聴取することにした。
昇進した際の話をよく聞くと、部下とのコミュニケーションがうまく取れず、部下に仕事を任せられなかったため、仕事の全部を自分ひとりでやっていたことがわかった。他の状況についても聞いたところ、発達障害の可能性がかなり高いと思われた。
診断を確定する必要から男性に心理検査を勧めて予約を取ったが、そのままドロップアウトしてしまった。筆者はその後、男性に何度か連絡をとったが、返事は来なかった。
発達障害は周囲との関係性をうまく保てないことが根底にある。
集団内での調和を求められ、「空気を読む」ことが重視される日本では、発達障害を抱える人は生きにくいと感じることが多い。海外で過ごしている間はほとんど問題がなかったが、日本では発達障害であることが問題になるという人も少なくない。
一般的には、話がかみ合わない、見るからに変な人、というイメージが強いのではないか。確かにそういう場合もあるが、話がうまく営業で好成績を収めているような場合もある。
ただ、会話の内容をよく吟味してみると、自分の思っていることを一方的に話しているだけで、こちらからの話には表面的に同意はしても、真意はなかなか伝わっていないことがある。筆者が診た男性はまさにこのタイプだった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら