鉄鋼値上げに大逆風、牽引役の中国市場も失速し、需要急減
中国発の先安感高まる 日本も減産に着手か
海外の変調も明らかだ。これまで世界の鉄鋼需要拡大を引っ張ってきた中国では、景気減速や北京五輪の反動から国内需要の冷え込みが顕著になっている。
一部を輸出に振り向けた結果、8月の中国鋼材輸出は過去最高の768万トンを記録。中国全土18地区平均の熱延鋼板価格は、7月(6180元)をピークに9月11日段階で5623元と1割近くも下落している。首鋼集団など大手4社は、10月から2割の協調減産に乗り出したが、在庫は増加傾向にあるという。経済産業省鉄鋼課の石川正樹課長は「中国がこれ以上、価格を下げるとユーザーに先安感が高まる。世界的な先安感から仮需とは逆の動きが出てくるだろう」と中国発の先安感台頭を警戒する。
こうした流れを受けて、今上期は仮需も伴う形で鋼材市況が上昇の一途をたどってきた日本の状況も逆転している。しかし国内高炉メーカーには、値下げしたくてもできない事情がある。市況品のスクラップと違い、鉄鉱石などの高炉原料は年度ごとに価格改定されるため、今年度の主原料コストは下がらない。
さらに鉱山大手のBHPビリトンによる同業リオ・ティント買収も引き続き懸念材料だ。鉱山側の寡占化が進めば売り手主導となり、原料価格の大幅下落は期待薄。世界的な需要減退を受けて来期の原料価格が一定程度は下落するが限定的。むしろ値下げとなれば、自動車メーカーなどのひも付き(長期大口契約)ユーザーが、鋼材値下げを強硬に主張することは必至だろう。
需要減退に対応するため、高炉メーカーが目先の減産に踏み切る可能性は考えられる。経産省の石川課長も「今から需要見合いの生産をするべき」と減産の必要性を説く。それでも周辺からの値下げ圧力は、日ごと強まるばかり。新日鉄の追加値上げの背後には、値下げの足音が迫っている。
(猪澤顕明 =週刊東洋経済)
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