ななつ星vs「自然災害」運休回避への一部始終 突然の代替ルート運行に観光業者の対応は?

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だが、自然の脅威は再び九州の鉄路に大きなつめ跡を残すことになる。9月17日に九州に上陸した台風18号は、特に大分県に多数の被害をもたらし、鉄道も線路やトンネルなど約200カ所が被災。日豊本線でも土砂崩れなどが発生し、復旧には長期間を要する事態となった。

ゴージャスな車体に乗務員のサービスも負けない(撮影:梅谷秀司)

17日は日曜日で、本来なら「ななつ星」1泊2日コースの運転日だったが、この日は台風接近のため運休していた。次の運転は19日からの3泊4日コース。だが、まさに運転日を目前にして、運行ルートである日豊本線が被災してしまったのだ。

同線の被害は大きく、当面、不通になることが確実になったのは18日の朝。運転日が翌日に迫る中、運休という選択肢もなかったわけではない。だが、「この日を楽しみにしてきたお客様のために、そして災害に見舞われたときこそ、九州を元気づけるためにこの列車を走らせるべきではないか」との意見が上回り、翌日の運行に向け代替コースの検討が始まった。

「ななつ星のためなら」と地元が動いた

実質的に動ける時間は半日程度しかない中、コースについては1泊2日コースで採用している長崎方面へのルートを生かし、3〜4日目は鹿児島へと足を延ばすことでメドがついた。だが、問題は観光と食事だ。どちらも1泊2日コースで立ち寄る場所に依頼する方向で調整を進めることになったが、この日は運悪く祝日。「関係各所との連絡は大変でした。なんとか夕方までに連絡がつき、いずれも引き受けていただけることになった」と、クルーズトレイン本部副課長の水嶋法子氏は言う。本来なら宮崎で積み込む予定だった2日目の昼食は、この回に限り業者に吉松駅(鹿児島県)まで車で運んでもらえることになった。

これらの手配をわずか1日の間に終え、3泊4日コースは休むことなく代替ルートで運行を継続。翌週からは途中の観光や食事の態勢をさらに整えた。福永氏は言う。「地域の方々の支援なくしてコース変更はできなかった。食事や観光などの施設の方々には無理を聞いていただく形になったが、『ななつ星のためならやりますよ』と言っていただけた。おもてなしは地域の方々の応援があるからこそできる。本当にありがたい」

2018年春からの3泊4日コースでは、熊本地震による変更以来、約2年ぶりに阿蘇へと乗り入れる。久大本線の一部不通は続いているが、同区間を避けて大分側から入線することで実現した。「『ななつ星』が乗り入れることで、阿蘇は元気だとPRできると思う」と福永氏。JRだけでなく九州そのものの象徴として、「ななつ星」は走り続ける。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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