「女のくせに」と出世を阻まれた人が思うこと かつて会社員だった「書店ガール」作者が問う
ただし碧野さんは、この作品で男性批判をしたいわけではない。むしろこの作品から伝わってくるのは、「出世なんてしたくない」と腰が引けている女性たちに「本当にそれでいいの?」と問いかける作者の声だ。
「日本の女性が昇進の辞令を受けると、ほとんどが“なぜ私が?”という反応をするそうです。つまり、出世に消極的なんですね。肩書がつけば責任を負わなくてはいけないし、集団の中で目立つのが怖いという意識もあるようです。
でも私は、女性管理職が増えないと日本の社会は変わらないと思う。日本の企業や組織でセクハラの問題がなくならないのも、育休明けの女性が意にそわない異動や働き方を強いられたりするのも、男性の論理で物事が決められているから。この作品でも、女性の部下にセクハラで訴えられた男性上司が会社から大した処罰も受けずにすまされるエピソードがありますが、これだって議論の場に女性が3割でもいたら、結論は違ってくるはず。女性の出世が普通になれば、変えられることはたくさんあるんです」
勇気ある女性たちが社会を変えてきた
本作には、駒子とともに課長から次長へ昇進し、さらにその上の部長ポストを競い合うことになるライバルの同僚女性が登場する。のんびり仕事ができれば満足だった駒子とは違い、上昇志向の強い彼女は一見イヤな女に思える。だが、「選ばれたからには必ずのし上がってやる」という彼女のような腹のくくり方こそ、実は今の日本の女性たちに必要なのかもしれない。
「“私がやらなくても、誰かがやってくれるだろう”と考えているうちは、社会も企業も変わらない。セクハラの問題だって、私が若かったころは“男性が女性のお尻をちょっと触ったくらいでギャーギャー騒ぐのはみっともない。温かい目で受け流すのが大人の女性だ”という考え方を、男性だけでなく女性もしていたんですよ。
でも1980年代後半ごろから勇気を出して裁判で闘う女性たちが出てきて、“セクハラは絶対にいけないことだ”と広く認知されるようになった。だから世の中を変えるには、女性の視点を取り入れていくことが必要なのです」
そんな現代社会が抱える深刻なテーマを扱いつつ、明るく痛快なエンターテイメント小説に仕上げた本作。女性読者なら駒子に共感したり、男社会の理不尽さに腹を立てたりしつつ、最後は爽快な気分でこの本を閉じることになるはずだ。