アマゾンが広告業界を根底から破壊する必然 いま「広告のルールチェンジ」が起きている

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山田:アップルのように顧客のデータを集めない会社もあります。「よいID」「悪いID」の前に、「IDを取らない」という選択もありえるかもしれません。

笠松 良彦(かさまつ よしひこ)/イグナイト社長、Advertising Week Asia 日本事務局長。1964年生まれ。1986年慶応義塾大学卒業。1992年博報堂を経て、2001年電通入社。2005年10月から2010年3月まで、電通とリクルートのジョイントベンチャーであるMedia Shakers社長。電通コミュニケーションデザインセンターを経て、2010年7月、イグナイト設立(編集部撮影)

笠松:それをできるのは現時点では圧倒的な商品差別力を持っているアップルくらいであり、他社がまねできることではないと思います。やはり、自社のファンをID会員として組織するのが王道です。潜在的な顧客を含む自社のファンを集めていけば、それは「よいID」といえますが、抽選で何かをプレゼントするようなキャンペーンによってIDを集めているのであれば、それは「悪いID」です。数を増やすことを目的化してしまうと、必ずこうしたおかしなことになってしまいます。

しかも、悪いIDは役に立たないだけでなく会社にとっての害悪にもなるので、すぐにやめるべきだと思います。おかしなIDを集めるくらいであれば、自社ではID会員を持たず、フェイスブックなどを使ってターゲティング広告を打ったほうがよほどいい成果が得られるのでは?と思います。

山田:アマゾンは、アメリカではレジに人がいない無人コンビニ「Amazon Go」や人気書籍を並べた「Amazon Books」などのリアル店舗を展開していますね。

笠松:物流コストを考えると、商品によってはお客さんの自宅に運ぶよりもお客さんに来てもらったほうが合理的。「ネット企業がなぜ?」みたいなことを言う人もいますが、ネットとリアルは対立概念じゃないので、きわめて自然な流れだと思います。

アマゾンだけでなく、中国のアリババは盒馬(フーマー)というリアル店舗を運営しています。「生鮮食品って、ECで買わないよね。だったら店舗を自分たちで作ろう」ということ。どうせ倉庫は置かなきゃいけないんだから、その倉庫を店舗にしちゃえばいいよね、という発想です。店舗というリアルのタッチポイントがあることの強みは大きく、そこで買って満足すれば顧客の心の中に安心のブランドとして確立されるので、その後はECでどんどん買い物をしてもらえます。

こうやってファンを作っていくことは、正しい判断だと思います。おそらくPL上はリアル店舗は稼げているわけではない。でもリアルのタッチポイントとして、お客さまに感動を与えればいい。感動を与えれば、自分たちの会員になってくれる。これは典型的な「よいID」だと思います。

広告業界全体にとって最大の競合は?

実は、広告業界全体にとって最大の競合がいるとすれば、それはアマゾンだと思っているんです。あの勢いで取り扱うアイテムをどんどん増やしていったら、広告活動も彼らのプラットフォームの上でかなりの部分が賄われちゃうかもしれない。アマゾンのレコメンド機能が最強のマーケティングになるのかもしれない。だから、アマゾンさんには「あなたがたは広告業界をディスラプト(破壊)するんですよね?」って聞いてみたい。そうとは絶対に言わないでしょうけど、意識せずとも広告業界を良い意味で破壊していくんだと思います。

僕はそのことに対して敵対心を持っているわけではなく、ある種のあこがれの心を持っています。心の底からアマゾンって本当にすごいなあ、と思う。すごい時代になってきたな、と思います。

次ページもし、アマゾンからジョブオファーがあったら?
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