EVブームの論調に踊る人がわかってない本質 参入障壁の安全技術と需要を理解してますか

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衝突安全実験時にはいくつも計測機器が車両に付けられる

ちなみにこれらのダミーと車体の各部には大量の加速度計が組み込まれており、衝突時の1/100秒単位の変位と加速度のデータを1実験あたり約250カ所で測定・記録する。さらに16台の高速度カメラであらゆる角度から撮影をする。ボディ下面の撮影のために衝突ゾーンの床はガラス張りになっている。

オフセット衝突などさまざまな条件を考慮しなければならない

非常に大掛かりなテストである。衝突実験だけ見てもカタログモデル1車種あたりでは数億円から数十億円のコストがかかる。自動車メーカーにはすでに長年積み重ねてきた衝突実験のノウハウがあり、コンピュータシミュレーションで基礎設計を終えた段階では、すでにほぼテストをクリアできる目算が立っている。衝突実験はそれらの最終確認であり、主に上述の規制や基準をクリアしていることを証明するデータ取りのために行われる。

自動車産業への参入障壁の高さの本質は何も変わらない

膨大なノウハウを持っており、効率的に開発が進められる既存自動車メーカーですらこれだけ巨額の費用がかかるのだ。これをノウハウと設備がゼロの所から手探りでやったらいったいいくらかかるか? 衝突安全設計を専門とする人材の確保も容易ではない。

ちなみにテスラの場合、折しもリーマンショックでビッグ3がチャプター11(連邦倒産法第11章による倒産手続)適用に陥り、大量のエンジニアが流出したタイミングだったので、希少なスペシャリストを運良く受け入れることができたが、普通ならノウハウが特殊すぎて簡単に確保できる人材ではない。

つまり、自動車の開発で最もノウハウの蓄積が必要なもののひとつが衝突安全開発であり、モーターとバッテリーで走るクルマであってもそれは変わらない。誰も予想できないほど大きなブレークスルーによって、これらの衝突安全技術がコモディティ化するようなことがあれば話は別だが、そこが解決しないかぎりエンジンがモーターに変わろうが自動車産業への参入障壁の高さの本質は何も変わらない。

考えてもみてほしい。仮に航空機用の推進モーターが完成したとして、機体設計ノウハウのない新興メーカーが初めて作ってみた飛行機に搭乗できるだろうか? 人の命を乗せる乗り物は「やってみました」や「トライ&エラー」は気軽にできない。

さて、どうやら内燃機関は当分なくなる気配がなく、電気自動車を作ろうとしてもノウハウの塊であるシャシーが作れない。これだけでも巷の自動車のコモディティ化に対する否定材料は十分だと思う。

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