窮地の安倍首相を悩ます「小泉父子鷹の乱」 一匹狼の父と優等生の息子は最強の「父子鷹」

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こうした進次郎氏について、現時点で9月総裁選での安倍首相の有力な対立候補とされる石破茂元幹事長は、2日の民放テレビのインタビューで「『常に真剣勝負』という思いは、いろいろな仕事を一緒にして共有している」と評価した。進次郎氏は2012年9月の党総裁選で石破氏に投票した経緯があるが、これについても、石破氏は「政治への取り組み方に共感するところが進次郎さんにあったのかもしれない。少なくとも私にはあった」と笑顔で語った。

石破氏が進次郎氏に期待するのは2012年と同様に総裁選での「石破氏支持」だ。党内でも「進次郎氏の動向が総裁選の流れを左右する」(執行部)との見方が少なくない。ただ、進次郎氏周辺では「事前に誰を支持するかは明言しないはず」(同期議員)との声が多い。首相サイドも「影響力が大きいので、必ず恨みを買う」(官邸筋)とけん制する。

3月25日の自民党大会では、首相が改めて憲法改正実現への意欲を表明したが、進次郎氏は「国民の信頼がなければ憲法改正はできない。変えたいのと、変える環境が作れるかは、話が別だ」と突き放した。同31日に首相の地元の山口県に出張した進次郎氏は、内閣支持率の急落についても「今回は期待が野党に行っていない。自民党しっかりしろ、と。だから、自民党の存在意義がもう一度問い直されている」と解説してみせた。こうした言動について父・純一郎氏は周辺に「なかなか、いいこと言うな」と顔をほころばせているという。

父「直観派」、息子「理論派」

この小泉父子は、大向こう受けする言動で国民的人気を集める点では似ているが、政治家としての行動原理は全く異なる。純一郎氏は故加藤紘一元幹事長、山崎拓元副総裁とYKKトリオを結成し、1990年代の政局のキーマンとなった。

しかし、盟友だった加藤氏が森政権打倒に動いた2000年11月の「加藤の乱」では、先頭に立って鎮圧に動き、後に「YKKは友情と打算の二重奏」と言い切った。純一郎氏は「直観は過(あやま)たない、過つのは判断である」が持論で、YKK3氏による酒を飲みながらの懇談でも、「政策論議になるとそっぽを向く」ことが多かったとされる。

ところが進次郎氏は党農林部会長時代、「農政は素人」と公言して党内農林族の意見をじっくり聞き、ベテランも舌を巻く勉強ぶりと丁寧な根回しで、農協改革をまとめあげた。その前の復興担当政務官時代から同僚議員との政策勉強会を続けており、選挙演説の上手さだけでなく、「理論派の政策通」との評価も高まりつつある。

首相は4月17日からの訪米・日米首脳会談など、今後数カ月を得意の「安倍外交」で政権を再浮揚させて、悲願の憲法改正早期実現も視野に総裁3選を狙う考え。首相にとって、この直観派の父と、理論派の息子は「絶対、敵に回したくない"最強コンビ"」であるのは間違いなさそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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