安倍首相、「外交で挽回」とは考えが甘すぎる 「日米」、「日ロ」首脳会談に「日朝」も狙うが

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また、首相にとって21回目となるプーチン大統領との日ロ首脳会談も一筋縄ではいきそうもない。金委員長が中朝首脳会談に続いて、ロ朝首脳会談のための電撃訪ロを模索しているとの情報も飛び交っており、首相が長年積み重ねてきたプーチン大統領との友好関係にも、北朝鮮への対応で亀裂の生じる可能性が指摘されている。その一方で、同大統領が日本の悲願の北方領土返還で譲歩する見通しもないとされるだけに、関係者の間でも日ロ会談での外交的成果に期待する向きは極めて少ないのが実情だ。

そこで、首相サイドが画策するのが、小泉純一郎元首相以来14年ぶりの日朝首脳会談だ。一部報道では「北朝鮮が6月初めを検討」と具体的日時まで取り沙汰され、政府も「検討中」(菅義偉官房長官)であることを認めている。もちろん、5月末までに米朝首脳会談が実現し、「北の非核化」などで一定の前進があることが大前提とされるが、自民党内からは「もし、首相が平壌に乗り込んで、金委員長から拉致被害者帰国の約束でも引き出せば、支持率も一気に回復する」(執行部)と期待する声も出る。まさに「起死回生の一打」(同)というわけだ。

ただ、北朝鮮側は日本政府が圧力強化を唱えていることに対し、3月中旬に「永遠に平壌行きのチケットが買えなくなる」と警告している。このため、同委員長が米中両国首脳に対して行ったような掌(てのひら)返しの「外交的変身」をしない限り、「日朝首脳会談が実現しても、北朝鮮が日本側の足元を見透かした強硬姿勢に出る」(日朝関係専門家)との見方が支配的だ。

2012年暮れの第2次政権発足以来、首相が進めてきた「地球儀を俯瞰する外交」は、国際社会でも一定の評価を獲得し、国民に対する「世界の安倍」のアピールで、高い内閣支持率を維持できる要因ともなってきた。国会での激しい与野党対立を招いた「新安保法制」や「共謀罪」を強行成立させる際に、首相が野党側の激しい政権攻撃をしのげたのも、「安倍外交」への国民レベルでの高評価が背景にあったことは間違いない。

あがけばあがくほど政権危機は強まる?

支持率は急落、あがけばあがくほど政権運営は厳しくなる?(写真:共同)

しかし、財務省による組織ぐるみの公文書改ざんという「平成政治史に残る大事件」(小泉進次郎自民党筆頭副幹事長)がもたらした「森友政局」での国民不信は、これまでの安倍政権を襲った政治スキャンダルとは「深刻さの次元が違う」(同)のは否定できない。政府与党首脳の間には「佐川氏喚問で疑惑追及は一段落」(自民執行部)との楽観論も広がるが、後半国会では、働き方改革関連法案など重要法案処理の見通しはまったく立っていない。

首相は今国会を何とか乗り切ることで9月の自民党総裁選での3選につなげたい考えとされるが、自民党額賀派の次期会長となる竹下亘総務会長は3月末の講演で「(総裁選は)1カ月前までは(首相の)3選が確実だった。(情勢は)ちょっとしたことでくるっと変わる。本当に分からない」と指摘した。その一方で、「内閣の大黒柱」とされる麻生太郎副総理兼財務相が「森友のほうがTPP11(11カ国による環太平洋経済連携協定)より重大と考えている」と新聞の報道ぶりを批判して、「森友問題の責任者の言葉とは思えない」などと野党や国民の猛反発を受けて謝罪に追い込まれたことも、政権危機を増幅している。

こうしてみると、4月中旬以降の連続首脳外交で、「あがけばあがくほど奈落の底に引きずりこまれる『森友政局』という蟻地獄」(自民長老)からの脱出を狙う安倍戦略が奏功するかどうかが、「夏以降の安倍政権の命運を決める」(自民幹部)ことになるのは間違いない。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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