ホンダがそれでもレジェンドにこだわる理由 旗艦の役割は重要だがブランド確立は課題だ

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それでもホンダがレジェンドの国内販売にこだわるのには明確な理由がある。前出の青木氏はこう語る。

「最優先はホンダの新しい技術を真っ先に取り入れるクルマ。クルマを作るうえで、新しい技術に挑戦し続け、お客様の期待を超える商品を提供する、といった志というのが大切だと思っています」

確かにクルマの最先端技術は各社ともまずフラッグシップの最上級車に先行して導入され、徐々に下のクラスのクルマへと展開していく流れはある。ホンダには「NSX」という最新技術の塊のクルマはあるが、あくまでスポーツカーであって一般的なクルマに落とし込んでいく土壌としては、特殊すぎる側面はある。それに乗用車メーカーとしての「格」を考えても、ホンダがレジェンドの旗を降ろすワケにはいかないのだろう。

走行性能を上げたとしても足りない部分は

一方で、レジェンドがいくら走行性能を上げたとしても足りない部分がある。それは、やはりブランド力だ。たとえば、メルセデス・ベンツやBMW、アウディ、レクサスといった競合と考えるラグジュアリーブランドと比べて、素人目に見ても明らかに確立できていない部分がある。それは、ブランドアイコンだ。

メルセデスには「スポーツグリル」と「クラシックグリル」、BMWには「キドニーグリル」、アウディには「シングルフレームグリル」というフロントマスクにデザインの象徴がある。レクサスも当初は定まらなかったが、最近では「スピンドルグリル」を定着させてきた。それぞれ存在感があるだけでなく、徹底した統一感があり、正面からひと目見てどのブランドのクルマかわかる。

これはラグジュアリーなブランドをつくっていくうえで非常に大きな要素だ。高級ファッションブランドを見ても同じだ。商品をひと目見て、何のブランドかわかるように、ラグジュアリーなブランドには明確なアイコンがある。

ひるがえって、レジェンドにはこれといったブランドアイコンが確立されていない。フロントマスクにそれが表れている。マイナーチェンジ前後を見比べてみると、マイチェン前のグリルは五角形の下部にかけて内側に切り込んでいくデザインだったのに対して、マイチェン後は五角形の下部にかけて外側に張り出していく造形のグリルになっている。

後者のほうが確かに迫力はある。デザインとして工夫した部分だろう。ただ、それは裏返せば、「ひと目見てわかるブランドアイコン」を確立できていなかったという表れでもあるのだ。これは一例にすぎないが、それだけブランドを確立するというのは難しい。

下は軽自動車からレジェンドやNSXまでフルラインナップするホンダと、試行錯誤の末に時間をかけてブランドを確立・熟成してきた競合のラグジュアリーブランドと比べるのは酷かもしれない。ホンダには富裕層の固定客が相対的に少ないという点もあるだろう。

だが、だからこそ高い走行性能や上質な乗り味、内装の豪華さなどだけに限らないラグジュアリーカーのブランドを時間をかけて育てていくという戦略が、レジェンドには求められると言っても過言ではないだろう。

先川 知香 モータージャーナリスト

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さきかわ ちか / Chika Sakikawa

初めて見たバイクレースでマシンをバンクさせながら膝を擦って進入していくコーナリングを自分もやってみたいと思ったのをきっかけに、マシンを操ることの面白さを知り、その面白さを多くの人に伝えるべくモータージャーナリストを志す。現在の対象は2輪から4輪までと幅広く、Web や紙媒体で執筆中。愛車は Kawasaki Z250 とGASGAS、TOYOTA86 MT 仕様。休日は愛車でのサーキット走行やトライアルにも挑戦中で、公私共に乗り物漬けの日々を送る。

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