由美子さんは埼玉県蕨市で生まれ育つ。父はエリートサラリーマン、母は教育熱心な専業主婦という典型的な昭和の家庭だ。2歳年上の兄とともに、幼い頃から学業優秀だったという。彼女の体型はやや小太りで、肌の色が抜けるように白い。髪は明るい茶色に染めているが、根元を見ると5ミリ程度白くなっており、白髪が多いことがわかる。目が大きく愛嬌があるが、アイラインを太目に引いているので表情がきつく感じられる。ファッションは黒のジャケットにオレンジ色のタイトスカートを合わせ、インナーはグレーの丸首カットソー。百貨店で買った日本ブランドのものを、長く使うタイプなのだろう。バッグはドイツブランドのスモーキーピンクのナイロントート、靴は黒のローヒールだ。かすかに甘く香水の香りがした。
「私の夫は高卒なんです。私自身は早稲田大学政治経済学部卒業で、夫が低学歴だと周囲にわかられてしまうのがイヤで、授かり婚だったことを理由に、結婚式はしませんでした」
夫は由美子さんが独身時代によく行っていた秋葉原のバーの雇われ店長だった。男女の仲になったのは、出会いから2年後、由美子さんが30歳のときだった。仕事で大きな失敗をした後に、深酒してしまった由美子さんを、彼は朝まで介抱してくれたのが縁となった。
持っているカードもゲームのルールも違う
「私から彼を誘いました。私は昔から男性を前にすると、つい張り合ってしまい、それに反応した相手とマウンティング合戦になってしまうこともあったのです。しかし、彼はそんな私を大らかな気持ちで受け止めてくれたような気がしたのです。今思えば、彼の両親も高卒で、子どもの頃からずっと地元の仲間たちとつるんでいるから、持っているカードもゲームのルールも違う。だから私を受けとめられたのでしょう。それと、基本的に想像力がないことと、自己肯定感が高いから、大らかに振る舞えたのでしょうね」
ちなみに、由美子さんが言う「ゲーム」とは、学歴、能力、人脈をカードに、どこまで高み(年収と地位)に登れるかを競うことを指す。
「交際3カ月で娘を授かり、妊娠中に入籍しました。そのときに、名門女子大学を卒業している母が、“なんであんな男と?”と高卒の夫との結婚に疑問を投げかけたのです。そのときは彼しかいないと思っていたので、聞こえなかったふりをして結婚しましたが、夫婦になってからは違和感だらけの毎日に母の言うことを聞けばよかったと後悔しています。夫は読書も映画鑑賞もせず、音楽も聞きません。趣味といえばパチンコかネットゲームなど、文化のかけらもないものばかり。そんな彼への不満を挙げたらきりがありません」
結婚後に実家の飲食店を継いだ夫は、忙しい由美子さんに代わり、娘の保育園の送り迎え、食事の支度などを引き受けていた。
「でも、くわえタバコで夕方のお迎えに行くなど、信じられないことばかりしていますよ。大学の同級生は同じレベルの男性と結婚し、海外赴任したり、夫婦で人脈を共有して仕事をしている。それなのに私は想像力も教養もない夫と東京の下町で、ゲームの電子音を聞きながら暮らしている。こんな不公平な話はないと思いました」
そんな彼女が最初に不倫をしたのは、娘が5歳になった35歳の頃。
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