直6エンジンが今、見直されている本当の理由 ベンツが復活、マツダ次期「アテンザ」搭載か

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仮に2リッターのエンジンだとして、25%の排気ガス(理論的にはともかく実際にはそんなに入らない)を混入すれば、実質的には1.5リッター相当のパワーしか出ないが、熱効率的には2リッターエンジンにもかかわらず従来の1.5リッターエンジンを凌駕できることになる。

さて、こうした複雑なやり方で燃焼効率をつねに最高の状態に保とうと思えば、コントロールが大変だ。それを実現するためにMBD(Model Based Development)と呼ばれるスーパーコンピュータを利用した数理的な解析が不可欠になってきている。

理想の燃焼状態を維持するために必要なのは、燃焼を左右するハードウエアの制約ポイントを確実に見つけ出し、絞り込み、空気と燃料の流れをいかにモデル化するかだ。それにはスロットルから吸気弁までの容量や距離、吸気量センサーに当たる空気の量、燃焼室と吸気系全体の体積比など、ハードウエアが燃焼を左右する要素をいかに相似形にそろえるかが重要になってくる。それらをモデル化して精密に再現できれば、ひとつの数理モデルをすべてのエンジンに適用し、同じ燃焼特性が何度でも再現できるようになる。

現在、世界的に見て、乗用車エンジンの基本は直列4気筒エンジンである。MBDを用いてこれらのエンジンを設計し、その数理モデルを適用して6気筒エンジンを作ろうと思えば、吸気系の形状が根本的に異なり、直4と相似形にできないV6では困る。要素をそろえることができないV6のためにはもう一度数理モデルを作り直さなくてはならなくなる。一方で直6であれば、直4で蓄積したモデルをそのまま使うことができ、エンジンの開発コストが大幅に削減できる。

法律と技術がこれまでの常識を変えていく

つまりこういうことだ。

・ダウンサイジングターボはWLTPでは通用しにくい
・排気量を上げないと求められる過渡特性が出ない
・理想の気筒あたり排気量を実現するためには、排気量によっては6気筒の必要がある
・MBDの燃焼シミュレーションを適用するには直6でないと都合が悪い

こういうさまざまな状況によって、いままた直列6気筒がトレンドになりつつあるのだ。もうひとつの背景としては衝突安全の技術と素材が進化し、以前ほど大きな潰れ代(しろ)がなくても衝突エネルギーを吸収できるようになったこともある。法律と技術がこれまでの常識を変えていく。工業製品は社会と密接にかかわっているのだ。

池田 直渡 グラニテ代表

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いけだ なおと / Naoto Ikeda

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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