直6エンジンが今、見直されている本当の理由 ベンツが復活、マツダ次期「アテンザ」搭載か

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さて、では熱効率を向上させるためには何をどうしたらいいのか? 燃料と空気を混ぜたものを混合気というが、この混合気を事前に強く圧縮してから着火させたほうが燃焼圧力は高まる。高性能エンジンの圧縮比が高かったのはこのためだ。だったらどんどん圧縮比を上げたいところだが、それをやるとノッキングが起きる。ノッキングというのは異常燃焼のことで、最適なタイミングより早く着火してしまう早期着火<プレイグニッション>と、燃焼室内の燃え方の不均衡による爆轟(ばくごう)<デトネーション>の2つの問題がある。

まずは早期着火から。気体は圧縮すると温度が上昇する。200℃にもなれば圧縮熱で燃料が勝手に燃え始めてしまう。燃焼タイミングがコントロールできないとエンジンが壊れてしまうので、かつては熱効率向上の余地を知りながら圧縮比を抑制していた。

これに対しては直噴がひとつの解決になっている。吸気中の燃焼室に直接燃料を噴射すると、気化潜熱で気体温度が下がる。インタークーラーと同様の理屈で圧縮前のスタート温度が下がって早期着火が起きにくくなるので、従来よりも高い圧縮比が使える。予圧縮が高ければ燃焼圧力が上がって熱効率が向上するのだ。

もうひとつは爆轟だ。プラグ周辺で最初に着火した燃焼ガスの膨張が、隣接した未燃焼の混合気をさらに圧縮する。これが連続的に繰り返され、プラグから最も離れたエリアでは、最終的に熱膨張速度が音速を超えてしまい、衝撃波が発生して金属部品の周りにできた境界層を破壊する現象が起きる。熱い風呂に入ってせっかく落ち着いた後にかき混ぜられるのと同じく、金属地肌の表層にある低温の境界層を剥がされると燃焼の熱に直接触れてピストンが溶けてしまう。

これを防止するために、従来はセンサーを設けてノッキングが始まったら、エンジンが壊れないうちにプラグの着火タイミングを遅らせていたのだ。ただし、こうやって点火タイミングを遅らせると2つの問題が発生する。

まずはピストンが上死点に達して最大圧縮を得るタイミングを逃すので、実質的な圧縮比が下がり、熱効率が落ちる。さらに、ピストンの全ストロークを有効に使って燃焼圧を受け取ることができなくなる(しかも一番燃焼圧が高い所を逃してしまう)ので、燃焼圧を力に変換する効率も落ちてしまう。WLTPで求められる急加速ではエンジンは最もノッキングが起きやすい高負荷が多用されるので、この状態が頻発する。

EGRとMBD

そこで、ノッキングのコントロールを点火タイミングからEGR(Exhaust Gas Recirculation)制御に切り替えるという流れが加速した。これは排気ガスを意図的に吸気に混入する技術である。燃焼後のガスはほとんどが二酸化炭素(CO2)と窒素(N2)である。これらのガスは不活性ガスと呼ばれ、燃焼を抑制する働きがある。

つまり燃料のオクタン価を上げたのと同じで、EGRをうまく使えば、点火タイミングを維持したまま早期着火を抑制したり、爆轟を抑制したりしてノッキングを防止できる。ただし、排ガスが混じることで新気の充填量は減るので、それに見合う燃料も減る。そのため絶対的なパワーは多少落ちるが、化石燃料から力を取り出す効率については点火タイミングを遅らせないことによって向上するのだ。

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