4月の安倍訪米は「中止」が得策かもしれない 日米関係に亀裂が入る危険性が増している

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金正恩氏の米朝首脳会談申し入れに対応しつつあるトランプ大統領に対しては、金氏本人はもちろん、韓国の文在寅氏も、中国の習近平主席も高く評価している。そんな状況下で、オバマ氏と安倍首相が会談することによって発せられる、オバマ流の「核なき社会」へのメッセージは、トランプ大統領が進めようとしている「米朝平和工作のビジョン」というディールを殺すディールキラーになりかねない。

安倍首相がオバマ氏に会うことは、ディールメーカーにはなれないオバマ氏を安倍首相が補助ないし支持してしまうことになり、結果的に安倍首相だけでなく、日本がトランプ大統領の「平和工作」に対するディールキラーになりかねない。日本にとっては「バッド・ディール」なのではないか。

言い換えると、安倍首相がオバマ氏と会うのは、日本にとってマイナスになる。そもそも現役時代のオバマ氏が外交上手だったとは言えない。安倍首相とオバマ氏との今回の会談は、北朝鮮問題という喫緊の課題において、国際社会全体に対してもマイナスになりかねない。それを防ぐためにも、安倍首相はオバマ氏と会わないほうがいいのではないか。

今後の安倍首相にとっては、森友問題など難問山積の国内問題を最優先させるほうが、真紀子氏が指摘したように、日本にとってマイナスにならず、むしろ追い風になるかもしれない。現役を退いた民間人のオバマ氏と会うより、混乱を極めている国内政治に全力を傾注することは、当たり前のことではあるまいか。

「日本の国内事情ファースト」で、非礼のほど、本当に失礼しますと、丁寧に説明すれば、その道理が分からないオバマ氏では決してないはずだ。

ティラーソン氏更迭の二の舞を避けよ

安倍首相は、これまで北朝鮮に対して米国とともに制裁・圧力の強化を強調してきた。そのことからすると、今回の激変によって米朝首脳会談が実現し、その会談が成功することになると、安倍首相はハシゴを外される格好になるという見方がある。

そういう見方は、米メディアの中にも明確にあるが、安倍首相はそういう見方に左右されたり、動揺したりすべきではない。なぜなら、仮に5月とも報じられる米朝首脳会談がうまくいき、非核化への方向に動き出した場合、そのすべての功績は、本来、トランプ大統領一人にあるからだ。

安倍首相は、その方向に協力していくと言明するのはいいが、あくまでもリーダーシップはトランプ大統領にあり、すべての功績は、安倍首相のモノではなく、トランプ大統領一人だけのものである。そのことを安倍首相は肝に銘じておくべきだろう。

もし安倍首相が、自分にも功績があるような発言をしたり、口に出さずとも内心で思ったりすれば、人の心を読むのを得意とするトランプ大統領は、たちどころに察知し、その怒りを買うことになる。それを契機に日米関係に亀裂が入りかねない。

レックス・ティラーソン国務長官が更迭されたのは、昨年夏のトランプ大統領に対する、ティラーソン氏による「間抜け」発言が主たる原因ではない。失脚直後の記者会見で、ティラーソン氏が北朝鮮との交渉では、自らに功績があったかのように発言したように、現在に至るまでのティラーソン氏の内心の動向が、トランプ大統領の怒りを買ったからだ。安倍首相はティラーソン氏の二の舞を避けなければならない。

真紀子氏が皮肉交じりに言ったように、4月の安倍首相の訪米は、森友問題からの逃げであり、それ自体、安倍首相の勘違いかもしれない。「ハシゴを外されてはかなわない」という思いが、万が一、ほんの少しでも安倍首相の内心に残っているのであれば、安倍首相にとっては、オバマ氏と会わないほうがいいだけでなく、4月の安倍首相のわざわざの訪米もやるべきではないのかもしれない。

湯浅 卓 米国弁護士

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ゆあさ たかし / Takashi Yuasa

米国弁護士(ニューヨーク州、ワシントンD.C.)の資格を持つ。東大法学部卒業後、UCLA、コロンビア、ハーバードの各ロースクールに学ぶ。ロックフェラーセンターの三菱地所への売却案件(1989年)では、ロックフェラーグループのアドバイザーの中軸として活躍した。映画評論家、学術分野での寄付普及などでも活躍。桃山学院大学客員教授。

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