阪急電車「美しいマルーン色」の秘密は塗料だ

建物や自動車とは違う「鉄道塗装」の特徴

そのフタル酸樹脂から、より高い性能を求めて、現在はアクリルラッカー系樹脂とウレタン樹脂に変化している。最初は、新幹線車両におけるアクリルラッカー系樹脂の採用だった。従来とは異次元の速度で風圧、振動、物が当たる衝撃を受けた際の強度が求められ、初めての新幹線に、新幹線専用の特殊塗料として開発された経緯がある。肉持ち感はフタル酸樹脂に及ばなかったが、格段に引き上げられた強靭さが、機能として最重視された。

対する在来線は、ウレタン樹脂に向かった。フタル酸樹脂より硬く、耐候性もアクリルラッカーに並ぶが、アクリルラッカーほどの特殊性はない。自動車の補修等にも多用される汎用性をもった塗料である。肉持ち感がそこそこあり、フタル酸樹脂の長所を維持する種類は何かと比較検討していった結果、ウレタンに帰結したと言う。

阪急電鉄の話では、1974年に現在の塗料に切り替えたとの説明だったので、その時期から鉄道界に台頭してきており、この十数年で主流になったようだ。

ウレタン塗料はなぜ人気?

ウレタン塗料が好まれるようになった背景に、JRが発足して以後、車両の検査周期が長くなったことも影響する。国鉄時代の全般検査は国鉄・私鉄とも3年以内だったが、 JR発足時の法改正で4年、現在では安全が証明されたものは最大8年となり、かつての全般検査周期が重要部検査の周期と重なるほどとなった。これにより多くの社で重要部検査にも塗装工程が組み込まれたが、こうした傾向からより長持ちさせる必要が生じた結果、切り替えが進んだ。

番号のマスキングは貼るのもはがすのも神経を使う作業(撮影:久保田 敦)

なお、溶剤の違いや反応スピードからウレタン樹脂塗料のほうが乾燥が早く、その分、次の作業に早く移れるメリットがあるが、前記の塗りやすさではフタル酸塗料が勝り、ゆえに現在でもフタル酸塗料を重用する例もあるそうだ。

一方、自動車の世界と比較すると、ほかにもさまざまな違いがある。自動車では、水性塗料の比率が年ごとに高まっている。電着塗装と称して、電着塗料のプールに塗装すべき車体を浸して電気を流し、水の電気分解を利用して塗膜を形成するため、必然的に水性塗料が求められる。中塗りや、その上に色を付けるベースコートと呼ばれる上塗り塗料も水性だ。有機溶剤に頼らないため、環境対応として非常に高レベルである。なお、その上のクリアコートは、ゴミなどによる不良率低減、生産性の向上から、今もほとんどのメーカーが溶剤塗料を使用している。

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