両備「赤字バス廃止」が突き付けた重い意味

地方公共交通への競争原理導入は適切なのか

両備グループは今回、地方の現状に合わない同法を見直し、地域の公共交通を守るための財政措置を講じることも国に訴えている。筆者は規制緩和の考え方自体は間違っているとは思っていない。しかし“右肩下がり”の時期の規制緩和は本来の趣旨であるサービス競争による質の向上には向かわず、値下げ競争による“消耗戦”の様相を呈しがちだ。結果として持続性や安全性が担保されず、バス事業全体が弱体化しかねない危険性があると感じている。

岡山市中心部には岡山電気軌道の路面電車が2系統走り、低床電車「MOMO」も導入されている(筆者撮影)

両備HDの主張の中に、本件を認めると全国で不当な競争が起きるとあるが、全国的にはあまり利益の見込めないバス事業への新規参入は(大都市圏も含めて)活発ではなく、ある部分岡山の特殊性によるところもあると思われる。

とはいえ、筆者も国の審議会などの委員をすることがあるが、議論が『東京の発想』で進んでいるという印象はある。東京のような大都市では需要が大きいため複数事業者による競争原理の導入が成り立つが、需要の少ない地方において競争原理を持ち込んでも事業者が疲弊するだけだ。基礎となる需要が旺盛な大都市圏とは根本的に異なる地方の状況を鑑み、全国一律の法律を再検証する必要はあるだろう。

地方バスの実態と行政のかかわり

1970年代から地方バスには行政による補助制度があり、国や地方自治体が不採算路線や廃止代替バスに補助金を出してきた。しかし当初は行政の危機感も薄く、単に“赤字が出たら埋めればよい”制度になった結果、事業者も努力しない仕組みになってしまった。その後マイカーの普及などで全国的にバス利用者が減り、事業者の経営はさらに悪化、近年になって路線廃止が増え、代替交通などに財政負担が大きくなったことが動機となり、交通問題に真剣に取り組む自治体が増えてきた。

とはいえ、そうした自治体の動きが裏目に出るケースもある。今回の問題は民間の事業者同士の競合だが、全国では市町村がコミュニティバスやデマンド交通ありきで地域の交通対策を考えてしまった結果、既存のバス路線がもたなくなって撤退してしまったケースなどが相当数みられる。先を見据えた交通政策とならず、場当たり的とも言える対策でしか行政のかかわりがない地域が多いのが非常に深刻な課題と言えよう。

さらに近年、バス事業を取り巻く大きな課題である乗務員不足も深刻さを増し、ぎりぎりの状況になっているところは全国にあまたある。すでに「乗務員が回せないために減便せざるを得ない」「新たな需要や行政からの依頼に対応しようとしてもどこかをやめないとできない」状況となっている。今回の31路線も乗務員のやりくりからこのままではいずれ何らかの手をつけざるを得なかったのではないかと推測する。

今回の問題は需要も担い手も減る中、『地域の交通網をどう維持するか』『バス事業をいかに存続させていくか』という二つの課題を社会に突き付けたといえるだろう。

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