両備「赤字バス廃止」が突き付けた重い意味 地方公共交通への競争原理導入は適切なのか
両備グループにとってその数少ない黒字路線と、岡山電気軌道が運営する路面電車が走る岡山市中心部に2012年、新規事業者の八晃運輸が中心街循環100円バス「めぐりん」で参入した。もともと岡山は1日数便乗り入れてくる事業者を含めると7社のバス事業者が混戦状態にあったところにさらなる競合をもたらすこととなった。八晃運輸はその後「めぐりん」を5路線に拡大(日赤線の一部に200円区間あり)、このたび両備HDのメインルートともいえる岡山市中心部と西大寺地区を結ぶルートにほぼ重なる新路線を申請、それが2月8日に認可された。
八晃運輸の新路線は中心部100円、それ以外が250円で両備HDの対キロ運賃より4割ほど安い。平日51往復、土日祝48往復の計画なので利便性もそれほど劣らない中、利用者が移行すると両備グループの減収は4割強と試算され、その結果内部補助が難しくなるため、赤字の大きい路線は企業として維持できないというのが廃止届につながっている。両備HDは今回の新規参入の路線認可は道路運送法第30条2項(事業の健全な発達を阻害するような不当な競争を禁ずる条文)に抵触し、不適切であるとして、路線認可の取り消しを国に働きかけている。
なぜ4割の運賃差が生じるのか
2002年の道路運送法改正により(供給輸送力と輸送需要量が不均衡とならないよう調整する)「需給調整規制」が撤廃され、事業者の新規参入や路線開設が容易になった。今回の岡山のケースも、同一区間に複数事業者が運行することと、異種運賃が併存することについては認められる範囲である。多客時間帯のみの運行ではないため、クリームスキミング(よいところだけをすくい取る)には当たらないとの運輸局判断で認可になったと考えられるが、今バス事業は決して良い状況にはない。それでなくとも岡山は、ある程度都市型のニーズはありつつも競合が激しく、事業者の利益が上がりにくい環境にある。
筆者も単純に、同一地域で4割の差がある格安運賃で事業性が確保され、安全などが担保されるのか、疑問符をつけざるを得ない。同一地域の賃金レベルがそれほど異なるとは考えにくく、人件費が一般的に6~7割を占める労働集約産業のバス事業において4割の運賃差を簡単に吸収できるとは思えない。もしそれが不採算路線を抱えていないから可能なのだとすると、それこそクリームスキミングをしていることの証左となる。そういう意味では、現行法の中で考えられるクリームスキミングの範囲も再検討する必要があるのかもしれない。
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