徳島の阿波踊りが「イベント地獄化」した理由 観光客120万人超、補助金投入でも大赤字の謎

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「徳島の阿波おどり騒動」では、観光協会という市の連結対象にもなっていた外郭公益団体が、長年「負の受け皿」となっていました。今回は、ついに地域内の争いが激化する中、市が補助金を打ち切り、観光協会への債務保証も放棄し、破産を申し立てるに至っています。観光協会も問題ですが、長年赤字を垂れ流してきたことを事実上認めてきた市も「一蓮托生」、そして阿波おどりのもう一人の主催者である、徳島新聞も同様です。未だ「潰す、潰さない」と揉めていますが、結局は阿波踊りの運営に関わる全ての大人達の長年に渡る、ずさんな運営の結果に他なりません。

しかし、他の地方自治体は阿波おどりの話を笑えないはずです。他の地域でも、地域の一大事業を担う、万年赤字の団体や第三セクターを抱えており、阿波おどりのように、補助金や指定管理による委託料、債務保証による借り入れで赤字を穴埋めしているケースが多々見られるからです。要は、どこの地域でも明日はわが身なのです。単に、たまたま明るみに出ていないだけで、潜在的に同様の問題は放置され、衰退の原因の1つになっています。

「稼げる企画」か「稼いでいる人が支える企画」への転換を

阿波おどりに代表されるような赤字企画を根本から変えるには、大きく2つの方向があります。

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1つは、企画自体をちゃんと稼げるようにすることです。たとえば、宮崎県宮崎市の青島ビーチパークでは、事業者がさまざまな出店を行っています。5月から10月までの、通年ではないシーズン限定にもかかわらず、23万人を集客。この企画では、事業者が、海岸エリアの使用料を県と市にきちんと支払っています。民間も稼ぎ、そして自治体にも収入があがる企画となっているのです。

また、札幌大通公園の夏のビアガーデンも稼ぐ企画です。実施期間中、約25万人が集まる人気イベントですが、各ビール会社がイベント設備を整え、出店料等を札幌市などに払ったうえで儲けるだけでなく、売り上げの一部については、福祉予算として協賛するという稼ぐ企画となっています。このように稼ぐ企画として成立しているものは日本全国で多数あり、近年は増加傾向にあるのです。

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もう1つは、地域で稼ぐ人が、資金を出して支えるということです。そもそも昔からの祭りというものは、はたまた橋も道路もですが、かつてはまちで稼いだ人たちの資金によって支えてきました。

たとえば、博多祇園山笠など各地の伝統的な神事にまつわる祭りは、まちで稼いだ人たちによって支えられています。博多辛子明太子を開発したことで有名な「ふくや」の創業者である川原俊夫氏も、生前は「山笠に何かあったら、全財産をつぎ込んでもどうにかする」と語り、大いに私財を山笠に投じたと言います。その他、各地の伝統的な祭りの多くが、時代時代に地域で稼ぐ人が支え、次の世代に受け継がれています。

少なくとも、今でも120万人超が訪れる阿波おどりは、十分に稼げる企画です。むしろ年間の観光振興予算をこの開催期間中の稼ぎによって、捻出することも可能でしょう。たとえば、オンラインによる、天候条件や時間などを加味した価格変動型チケット販売、VIP桟敷席の充実、ビアガーデンなどの飲食出店事業、臨時宿泊施設としてのクルーズ船停泊など、いくらでも企画は考えられます。さまざま企業から提案を受ければ、できることは山ほどあるでしょう。

祭りを食い物にするのではなく、祭りで稼ぐ知恵を出すか、もしくは自分たちの資金で支えるという覚悟を持つことこそが、運営にかかわる責任者たちに求められています。

木下 斉 まちビジネス事業家

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きのした ひとし / Hitoshi Kinoshita

1982年東京生まれ。1998年早稲田大学高等学院入学、在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長就任。2005年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業の後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学、在学中に経済産業研究所、東京財団などで地域政策系の調査研究業務に従事。2008年より熊本城東マネジメント株式会社を皮切りに、全国各地でまち会社へ投資、設立支援を行ってきた。2009年、全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、代表理事就任。内閣官房地域活性化伝道師や各種政府委員も務める。主な著書に『稼ぐまちが地方を変える』(NHK新書)、『まちづくりの「経営力」養成講座』(学陽書房)、『まちづくり:デッドライン』(日経BP)、『地方創生大全』(東洋経済新報社)がある。毎週火曜配信のメルマガ「エリア・イノベーション・レビュー」、2003年から続くブログ「経営からの地域再生・都市再生」もある。

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