「人口減」でも限界集落を見捨ててはいけない 強靭な日本のために「山の知恵」は不可欠だ

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日本社会は低成長の時代だと言われています。かつてのような大きな経済成長は見込めませんし、効率優先で経済成長ばかりを追うのではなく、現在程度の経済成長でもしぶとく生き残り、豊かに暮らせる工夫こそが求められるのではないでしょうか。

近代社会の限界が叫ばれて久しいですが、「これさえあれば」という万能の解決法はどうもなさそうです。少しずついろいろなことを試してみるのが、現実的な対処法なのでしょう。

小水力発電のポテンシャル

小水力発電を開発し、山間地の地域社会を継続させることも、そうした試みの1つです。山の暮らしで育った人たちが増えることは、必ず私たちの社会に安定感を生んでくれますし、さまざまなタイプの人が生きられる多様性に富んだ寛容な社会は、きっと今よりも楽しくなると私は思うのです。

日本の中小水力発電のポテンシャルは、900万㎾と言われています。さらにこのうち、出力1000㎾以下の小水力発電のポテンシャルは、もっと小さくなります。

私の経験では、採算性を考えた場合、民間資本によって赤字を出さずに小水力発電が開発できるのは日本全国で5000カ所ほどだと思います。小水力発電のモデルケースの出力が200㎾ですから、仮に平均で200㎾の出力だとすると、5000カ所の全部を開発すると合計で100万㎾となります。

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小水力発電のポテンシャルを日本全体の電力需要と比較してしまうと1%にも満たないことになりますので、非常に小さく見えるかもしれません。

けれど、これだけの電力があれば、小水力発電を行っている地元である山間地の需要はほとんど満たすことができるのです。小水力発電の可能性のある場所を開発すれば、山間地は電力の面で自立できるわけです。そして山村が持続していく可能性が高まるのです。

つまり、山間地にとっては十分に大きな電力だと言えるのです。

地球温暖化対策、日本のエネルギー自給率などを視野に入れると、このように地域ごとに分割して電力供給を考えることは有効ではないでしょうか。

そして、上記のように山間地の存続が日本社会の安定性や持続性にプラスになることを考えあわせれば、そのために大きく役立つ小水力発電の持つ意味は、決して小さくないと思うのです。

中島 大 全国小水力利用推進協議会事務局長

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なかじま まさる / Masaru Nakajima

一般社団法人小水力開発支援協会代表理事。1961年生まれ。1985年、東京大学理学部物理学科卒業。株式会社ヴァイアブルテクノロジー取締役などを経て現職。その間、分散型エネルギー研究会事務局長、気候ネットワーク運営委員などを歴任し、小水力利用推進協議会、小水力開発支援協会の設立にも参画する。現在、全国各地の小水力発電事業のサポート、コンサルティングなどを行っている。主な論文・著作に「転換期に来たエネルギー問題」(『経済セミナー』1994年11月号)、「低炭素革命に必要なエネルギー制度設計」(『経済セミナー』2008年9月号)、自治労自然エネルギー作業委員会報告書『エネルギー自治の実現を目指して』(共著、2005年4月)、連載「地方自治体の地球温暖化対策」(共著、『地方財務』2008年4月号~2009年6月号)などがある。

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