路面電車建設「反対意見」は本当に正しいか 道路の邪魔、バスで十分…欧州の例から検証

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最後に、「高齢化社会では路面電車が開業しても利用できる人が限られる」という意見について検証しよう。これは不可解な声だ。停留所まで歩き、公共交通機関を利用するのは大変で、車を使って移動した方が便利だというのがその理由だが、高齢ドライバーによる事故が社会問題となっていることは、報じられるニュースの数を見ても明らかだ。家族が送迎するとしても、核家族化が進んだ現代社会においては高齢者だけの世帯も多くなっている。

高齢化が進む今後は、車に頼らずとも高齢者が自分自身で不自由なく移動することが可能な世の中にしていかなくてはならない。路面電車と接続する末端区間のバス路線に自由乗降区間を設定し、自宅のすぐ近くから乗車可能にするといった方法で、歩行する距離を短くすることは可能だ。

今後を見据えた都市環境づくりを

オランダ・アムステルダムの繁華街を行くトラム。ここを通れるのはトラムと歩行者、それに配送車のみである(筆者撮影)

路面電車が建設されれば、全ての問題が解決し、市民全員が満足する結果になるわけではない。だが欧米では、車だけに頼った社会がどういう末路を辿るかにすでに気付いている。そして、かつては自動車社会にとって「お荷物」だった路面電車を新時代の公共交通機関として再生し、現在では路面電車を敷設した歴史がない都市へも積極的に導入されている。

だが、日本ではまだ路面電車は道路交通の敵という感覚が抜けきらない。このまま車にばかり頼った社会へ進んでいけば、日本は環境・福祉面で大きく立ち遅れた国となっていくことは想像に難くない。今後ますます加速していくであろう高齢化社会において、公共交通機関の重要性は日に日に高まっていくことだろう。10年、20年先を見据えた都市環境づくりは、現在の高齢者だけの問題ではなく、今働き盛りの30~40代にとっても、決して他人事の話ではないのだ。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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