知らないとヤバイ!年金の「基本中の基本」 若い人ほど「年金の重要性」をわかっていない

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では、国民年金だけの人と、厚生年金も払っている人の差はどのくらいになるでしょうか。月々1万6340円の国民年金保険料を1年払うことによる老齢基礎年金は2万円です。一方、月々1万8300円の厚生年金保険料(国民年金分も含む)を1年払うと、老齢基礎年金2万円に老齢厚生年金が1万3200円上乗せされた、3万3200円の終身年金となります。これは生活設計を考えるうえで、決して小さくない差になるでしょう。

厚生年金は「ちょい加入」でも「25年加入ルール」適用

では、厚生年金の中にも、障害厚生年金と遺族厚生年金があるのですが、これらはどう考えればいいでしょうか。

まず障害厚生年金は、発生時点における老齢厚生年金を元に計算します。1級であれば、老齢厚生年金額の1.25倍、2級は1倍というふうに、です。このときの計算の元になる老齢厚生年金は、加入履歴に応じて決まりますので、厚生年金加入期間が短いと小さな金額です。しかし厚生年金には「300カ月の最低保証」というルールがあるため、たとえ厚生年金加入期間が1カ月しかない方も25年会社勤めをしたと仮定して計算してくれるのです。また厚生年金には、2つよりも軽い障害3級という等級があるため、1級や2級には該当しないような病状でも、保障が受けられる場合があります。

一方、遺族厚生年金は、たとえば会社員の夫が亡くなると妻に対し一生涯支給されますが、このときの金額は老齢厚生年金の4分の3でかつ300カ月の最低保証です。民間の生命保険は病歴があると加入ができないなど条件がありますが、このように国の年金は病気があっても保険料の割り増しがなく入れる生命保険と考えると、やはり相当のメリットでしょう。

なお、老齢年金は物価スライドといって、支給額を物価や賃金上昇に合わせて調整する仕組みがあります。今はそこに「マクロ経済スライド」というマイナス要因が採用されているので、物価上昇そのままに年金額が変動するわけにはいきません。しかし、それでも人生100年時代と言われるように、寿命が伸びている中、どんなに長生きしても一定の収入を保障してくれる老齢年金はありがたい制度です。これも国の年金が賦課方式という支え合いの仕組みの上に成り立っているからこそであり、積み立て方式であればとても成り立ちません。

指摘されるように、現在の年金制度は1961(昭和36)年に組み立てられたものです。それゆえ、いささか時代に遅れをとっている部分もあります。以前のコラム「共働き夫婦は妻の死亡リスクを考えていない」で指摘したように、給付に男女差があるものもあります。また第3号被保険者の存在も、夫が会社員であれば専業主婦の妻の年金保険料は免除なのに、夫がリストラに遭い会社員でなくなると妻も第3号ではなくなり第1号被保険者として年金保険料を負担しなければならなくなるなど、いろいろな面で納得がいかない場面があります。

これらの原因の出発点は、すべて「1961年」にあります。高度成長期時代の「ザ・日本の家庭」を中心に「保険」として年金制度が組み立てられたため、「終身雇用」「年功序列」「男性は外で働き女性は家庭を守る」が前提になっているのです。今の時代にもっとふさわしい制度に変えていく必要はありますが、その前に年金とは保険であるという「社会保険」としての役割を、もう一度理解したうえで、改めて今後を考えていくべきです(今回は複雑な年金制度をかなり簡略化して説明したため、細かいルールまでお伝えしていません。詳細は日本年金機構のHP等をご参照ください)。

山中 伸枝 ファイナンシャルプランナー、FP相談ねっと代表

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やまなか のぶえ / Nobue Yamanaka

FP相談ねっと代表。一般社団法人公的保険アドバイザー協会理事。アメリカ・オハイオ州立大学ビジネス学部卒業。「楽しい・分かりやすい・やる気になる」ビジネスパーソンのためのライフプラン相談、講演を数多く手掛ける。大手新聞社主催のiDeCo(個人型確定拠出年金)やNISAセミナーの講師など登壇も多数。金融庁のサイトで、有識者コラムを連載。著書に『「なんとかなる」ではどうにもならない 定年後のお金の教科書』(インプレス)、『ど素人が始めるiDeCo(個人型確定拠出年金)の本』(翔泳社)、『100人以下の会社のためのiDeCo&企業型DC楽々活用法』(日本法令)ほか。公式サイト

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