日銀「黒田続投」真の意味は「金融緩和」の継続 今後の日銀の舵取りはどのようになるのか

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しかし、問題は消費税増収分の使途変更などによる幼児・高等教育無償化を盛り込んだ政策により、PB黒字化のための赤字国債償還などの財源がなくなってしまったことだ。本気でPBを黒字化しようと思えば、消費税率は10%に引き上げられた後、遠からぬ時期に、13~15%程度に再度引き上げねばならなくなるはずだ。

後始末は誰が

だが、そんなことは安倍首相にとっては関係のないこと。何しろ、自民党総裁の規定を変えない限り、安倍首相の任期は2021年9月までなのだから、尻拭いは次の首相がやることになる。安倍首相は「われ関せず」だ。そして、安倍首相が退任するまで、黒田日銀にツケをまわしながら、安倍首相は財政拡大路線をひた走るだろう。

しかし、いずれは日銀も金融政策の正常化(いわゆる出口戦略)に向かわねばならない時が来る。金利を引き上げれば、日銀が巨額の損失を被る事態は避けられない。2017年5月の衆議院財務金融委員会で、黒田総裁は、金利が1%上昇した場合、日銀が保有する国債の評価損は23兆円になると証言した。当然、日銀が買い入れている国債が増えているのだから、評価損も膨らんでいるはずだ。

日銀は国債の評価方法に「償却原価法」を採用しているため、国債を満期まで保有することを前提にしており、時々の決算で国債の評価損は計上されない。しかし出口戦略のために、日銀が保有国債を売却すれば、それは現実の巨額な損失となる。日銀の自己資本はわずか約7兆8000億円しかない。損失を処理できず、“債務超過に転落”するのは確実である。

その時、日銀の舵取りは誰がやっているのか? 黒田総裁自らが後始末をするのか、それとも黒田総裁の片腕で、金融政策のプロ、日銀プロパーの雨宮新副総裁が、後任総裁となって後始末をするのだろうか。

ちなみにその雨宮理事は、マイナス金利や長短金利操作など、黒田日銀の政策立案で中心的な役割を果たしてきた。金融正常化や追加緩和などを巡る政策の手法が複雑になっており、日銀が「次の一手」に動く局面では、政策の実務で重要な役割を担うことになる。

(文:金融ジャーナリスト 鷲尾香一)

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