不動産バブル崩壊--官製不況”金融庁悪玉説”は本当か
金融庁幹部が執筆したコラム記事が金融界で話題になったのは夏の盛りのこと。筆者は大森泰人総務企画局企画課長。日頃から型破りの官僚として知られる同氏は『旬刊 金融法務事情』誌上で、金融検査の実態を次のように表現してみせた。
「猿にマシンガンを持たせて野に放っているようなもんだな」
猿に例えられたのは庁内の喫煙所で「机を叩いてでかい声出したら、ハケ(破産懸念先)に落ちたぜ」と話していたという同じ金融庁の若手検査官氏。要は、金融機関に検査に訪れ、威嚇的に臨んだら、金融機関側が腰折れして融資案件を不良債権として認めた、と自慢している検査官がいるというのだ。
“猿にマシンガン”に溜飲を下げた金融機関関係者は決して少なくない。金融庁の検査官からの厳しい指摘に煮え湯を飲まされてきた経験があるからだが、その一方では「このタイミングでなぜこんな問題提起なのか」といぶかる。なぜならば、今年に入ってからというもの、金融庁による検査のムードはガラリと変わった。「率直に言って、優しくなった」とある銀行幹部が語るほどなのだ。
昨年まで厳しかった不動産向け融資の検査
シビアな検査に金融機関が悲鳴を上げたのは、2006年秋ごろから07年にかけてだった。中でも、極め付きに厳しかったのが不動産関連融資の資産査定と審査基準に関する検査だ。「こちらが要管理先としていた案件を破綻懸念先まで引き下げられるようなことが少なくなかった」(大手銀行)と言う。
要管理先と破綻懸念先は資産査定上、ワンランクの違いにすぎないが、雲泥の差がある。不良債権の烙印を押すことになる破綻懸念先への引き下げで、銀行はその貸し先企業には新規融資はできなくなる。もちろん、貸倒引当金繰入額も上積みしなければならない。勢い、金融機関は与信圧縮に向かいやすい。実際、金融機関は不動産関連融資の圧縮に向かった。はたからはそんな行動が貸し渋り、貸し剥がしに見られがちになる。案の定、しだいにちまたでは「貸し渋り」「貸し剥がし」という言葉が飛び交うようになった。
その間の経過が映し出されているのが不動産業向け貸出残高の推移だ。06年まで同残高は勢いよく伸び続けた。とりわけ、06年第3四半期の好伸は銀行などがノンリコースローンを一挙に積極化させたことを主因としている。
しかし、その直後、金融庁は大手銀行対象にノンリコースローンの実行に関するヒアリングを実施。過熱感が如実になった同ローンの実態を危険視し始めたからだった。そして、銀行関係者が言うところの「不動産関連に関する厳しい検査」が立て続けに行われた。
様相がぐっと変わったのが07年。一挙に不動産業向け貸出残高の伸び率にブレーキがかかる。06年に年間3兆8031億円を記録した純増額は07年は7354億円まで落ち込む。さらに08年には同残高はゼロ成長から減少へ。黒字決算でも資金繰り難から破綻する不動産業が続出する事態とあまりにも平仄(ひょうそく)が合う趨勢だ。金融庁検査の威力は絶大だった。