ナイキの知られざる誕生秘話はここまで熱い

2018年の今だからこそ響く創業者の言葉

とはいっても、ストーリーがここで終わるわけではない。それどころか、社名がブルーリボンからナイキに変わり、大きな売り上げをたたき出してもなお、資金不足が解消されることはなかったのだ。

極めて現代的なビジネスマンだ

そこで創業メンバーたちは、「バットフェイス(ブサイク)」という名のミーティングを繰り返し、その結果、1980年にナイキは株式公開を果たす。ここで明らかにされているのは、その時点までのプロセスだ。よって終章では振り返りも多くなってくるが、そんな中でも印象的なのは「ビジネス」について語られた部分である。

“ビジネス”という言葉には違和感がある。当時の大変な日々と眠れぬ夜を、当時の大勝利と決死の闘いを、ビジネスという無味乾燥で退屈なスローガンに押し込めるには無理がある。当時の私たちはそれ以上のことをしていた。(中略)一部の人間にとって、ビジネスとは利益の追求、それだけだ。私たちにとってビジネスとは、金を稼ぐことではない。(中略)
勝つことは、私や私の会社を支えるという意味を超えるものになっていた。私たちはすべての偉大なビジネスと同様に、創造し、貢献したいと考え、あえてそれを声高に宣言した。何かを作り改善し、何かを伝え、新しいものやサービスを、人々の生活に届けたい。人々により良い幸福、健康、安全、改善をもたらしたい。そのすべてを断固とした態度で効率よく、スマートに行いたい。
滅多に達成し得ない理想ではあるが、これを成し遂げる方法は、人間という壮大なドラマの中に身を投じることだ。単に生きるだけでなく、他人がより充実した人生を送る手助けをするのだ。もしそうすることをビジネスと呼ぶならば、私をビジネスマンと呼んでくれて結構だ。
ビジネスという言葉にも愛着が湧いてくるかもしれない。(499ページより)

そういう意味においては、著者は間違いなくビジネスマンである。しかも、極めて現代的な。

効率や生産性ばかりが重視されていた1970年代にあって、その立ち回りはエキセントリックなものだったかもしれない。しかし2018年のいま、「貢献」「サービス」「幸福」「健康」「安全」「改善」など、著者が記した言葉は、そのどれもが現代における重要なキーワードになっている。

だからこそ本書は、現代の読者に訴えかける極上のビジネス書だといえるのである。しかも、それだけではない。同時にこれは、ひとりの青年の成長を描いたすばらしい青春物語でもあるのだ。そして、「アメリカで反抗を知らないただ1人の若者」だった著者のたどってきた道のりには、読者一人ひとりの経験のいくつかと重なるかもしれない。

読んでいると、少しばかり甘酸っぱいような気持ちになってくるのはそのせいだ。

ライフの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 離婚のリアル
  • 今さら聞けない競馬のキホン
  • 内田衛の日々是投資
  • 競馬好きエコノミストの市場深読み劇場
トレンドライブラリーAD
  • コメント
  • facebook
0/400

コメント投稿に関する規則(ガイドライン)を遵守し、内容に責任をもってご投稿ください。

アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
「通いやすい」は「住みやすい」  <br>最強の通勤電車

鉄道各社のサービス改善競争は激化、路線間の格差が広がっている。利用客争奪戦で勝ち残る路線はどこか。混雑改善度ほか全7指標で東京圏32路線を格付け、新線・延伸計画の進度など、次の住まい選びを見据えて首都圏・関西路線を総点検した。