「乗り入れ先」が原因で遅れる地下鉄はどこか 相互直通運転のネック「遅延」データを集計

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ダイヤ乱れの日数が2番目に多かった副都心線は、千代田線よりもさらに他線でのトラブルが原因となったケースが多く、実に221日中196日で約88%。最も多かったのは、同線と一体的に運行されている東急東横線内でのトラブルで98回、次いで東武線内が54回、西武線内が52回、みなとみらい線内が2回だった。直通運転が中止された日数は、東武線が50日、西武線が46日、東横線が8日だった。

東横線でのトラブルで最も多かったのは人身事故で12件。同線はホームドアの設置が進んでおり、人身事故の減少が期待されるが、次いで多かったのは東横線内の遅延(10件)と混雑(8件)。副都心線自体は開業時からホームドアを完備するなど最新の設備を備えているためか、トラブルの発生件数は18回と少なく、同線の安定運行には東横線の運行改善が重要といえそうだ。

東急田園都市線、東武スカイツリーライン(伊勢崎線)・日光線と直通運転を行っている半蔵門線は、他線が原因となったダイヤ乱れの発生日数が190日中159日(83.7%)。発生回数は東急線内が115回、東武線内が52回だった。一部区間で副都心線と線路を共用し、西武池袋線、東武東上線と直通運転を行っている有楽町線は156日中117日(75%)で、うち東武線内でのトラブル発生が58回、西武線内が54回、副都心線が4回、同線と直通運転を行う東急線の影響を受けたのが5回だった。

南北線はダイヤ乱れの発生が69日と少なく、他線が原因となったトラブルの発生日数は41日(59.4%)だった。同線は、直通運転を行っていない銀座線(105日)、丸ノ内線(76日)よりもダイヤが乱れた日数が少なく、東京メトロ全線で最少だ。考えられる理由の一つは、直通運転を行う他社線も含め、全線全駅がホームドアを完備していること。今回調査した1096日中、人身事故によるダイヤの乱れは東急目黒線内で起きた2回のみで、線路内への人立ち入りも2回だけだった。

遅延原因の分析は進むか

ここまで見てきた各線は乗り入れ先による影響が大きな要因を占めていたが、一方でJR総武線各駅停車、東葉高速鉄道と直通する東西線、東武スカイツリーライン・日光線と直通する日比谷線は他社線の影響が比較的少なかった。東西線は187日中102日(54.5%)、日比谷線は84日中42日(50%)だ。

日比谷線は比較的ダイヤ乱れ自体が少なめだが、特徴的なのは東西線だ。同線内でのトラブルのうち、最多要因は16回あった人身事故だが、次いで多いのは計12回あった「強風」や「台風」。同線には長さ1kmを超す鉄橋、荒川中川橋梁が存在するが、これがネックになっていると考えられる。

各線のデータ集計からは、乗り入れ先路線で発生したトラブルが実際に大きな影響を及ぼしている現状が改めて確認できる一方、東西線や日比谷線のように必ずしも他線でのトラブルが主要因ではない路線があることも見えてくる。相互直通運転が拡大する中、ダイヤの乱れに対する対策は路線ごとの特性を把握したうえで、乗り入れのネットワーク全体で取り組むことが重要といえそうだ。

国土交通省は昨年末、首都圏の各鉄道事業者の遅延証明書の発行状況、遅延の発生原因、遅延対策の取り組みなどについて数値やグラフなどを利用し、わかりやすく「見える化」する取り組みを今年度から開始すると発表した。通勤・通学利用者を悩ませる遅延やダイヤの乱れについての分析と対策の進化が望まれる。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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