エルメスが「世界的ブランド」になれた理由 技術力だけでは取り残されていく
齋藤:アドリア海に行ったことがある人なら、アドリア海というネーミングがついた商品を持つことで自分の体験がビビッドに想起されるかもしれない。アドリア海に行ったことがない人も、商品に触発されて、アドリア海を見るために旅に出たくなるかもしれません。
山田:顧客に余白を与えるということですか?
齋藤:そうです。私自身よく思うことですが、多くの電化製品には余白がないですよね。機能はいろいろついているけど、実際に使っているものは少ないじゃないですか。
山田:説明書も分厚いですしね。読んでいないページのほうが圧倒的に多いです。
齋藤:顧客は機能を求めているわけではありません。機能を通じて得られる価値を求めています。価値に結びつかない機能は、いくら技術がすごくても顧客に受け入れられないんですよ。
山田:いい機能だけをつくればいい、機能をとにかく詰め込めばいいというのは勘違いであると。
齋藤:エルメスのロゴにもその思想が表現されています。馬車と従者は描かれていますが、馬車の上には誰もいません。この絵には「エルメスは最高品質の馬車を用意しますが、それを御すのはお客様ご自身です」という意味を読み取ることもできます。主役はあくまでも顧客であり、ものではありません。
山田:エルメスの職人は顧客に目を向けてものづくりを行っているのですか?
齋藤:向けていますし、職人に不足している視点や感性はデザイナーが補完しています。今エルメスには50名近いデザイナーとコラボしていますよ。
山田:職人をサポートできるのは一貫体制のメリットですね。日本のアパレル工場はほとんどが下請けになっていて、ただ手を動かすだけになっています。
齋藤:日本のものづくりの未来に必要なのは、作り手と使い手をつなげることです。顧客に目を向け、何が顧客の価値になるのかを考えていれば、日本の技術力はより輝きを放つと思います。
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