日本の「路面電車」政策に足りない重要な視点

セルフサービスの運賃収受が成功の鍵を握る

多客時は降車用扉への車内移動が難儀だ。降車用扉からの乗車を阻止するために外向きだけ開く小さなスイングドアが設置されているが、これが何とも物々しい。今の時代に乗降扉を指定するアムステルダムの方式はヨーロッパでは異端だ。

降車扉には乗車を阻止するスイングドアが設置されている(筆者撮影)

ところが、いっぽうで、全編成のおよそ3分の1がセルフサービス方式で運行している。中間にのみ低床車が挿入されているタイプの編成は、低床からでも乗り降りできるバリアフリーを達成するためには、全扉で乗り降り可能なセルフサービス方式が不可欠だからだ。セルフサービス方式では無札乗車が多くて運買収入の漏れが大きいとして車掌乗務を復活したのだが、実際には「利便性への影響はなるべく少なく」という方針のようだ。

そして、アムステルダムには学ぶべき点がある。それは、セルフサービス方式でも確実に運賃を収受するためのルールを設けていることだ。それは、1回券や24時間券などどんな乗車券でも、乗車時と降車時に車内扉脇にあるカードリーダに乗客が乗車券(ICカード)をタッチするルールである。

わが国の路面電車は「レトロ」だ

乗車時にタッチすると「ビッ」と音が出て緑色のランプが点灯し、降車時にタッチすると「ピッビッ」と音が出る。乗車時のタッチを「チェックイン」、降車時のタッチを「チェックアウト」と呼んでいる。このタッチの動作と発する音を乗客が相互に監視するという仕組みである。アムステルダムの「乗る時も降りる時もタッチ」は不正乗車抑止策として有効であり、わが国でのセルフサービス方式採用にあたって大いに参考になる。多くの都市では、例えば24時間券を使用する乗客は最初の乗車時だけにタッチするだけで2回目以降の乗車時にはタッチが不要なため、見た目は無札乗車との区別がつかない。これが無札乗車を助長している。

セルフサービス方式は、1960年代の半ばにスイスのチューリッヒで始まった。その後、西ヨーロッパ各国に普及し、路面電車の運賃収受のスタンダードとして、アメリカ、カナダはもちろんアジアの香港、台湾にも普及した。冒頭のアムステルダムのようにパッセンジャーフロー方式に戻す例もあるが、それでも乗客の利便性向上を意識していることは変わらない。

わが国の路面電車では、乗客一人ずつ順に乗務員が運賃を収受するため停車時間が長く、表定速度が低くなる。また、乗車扉と降車扉が指定されるので車内移動というバリアが伴うことから利便性が低い。ベビーカーを伴っての乗車は困難だ。ヨーロッパの路面電車にはベビーカーを伴う客がたくさん乗っている。わが国の車両自体は「現代式」だが、肝心な運賃収受の方式が「レトロ」なわが国の路面電車は、残念ながら利便性の低い「レトロ」な輸送システムだ。

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