日本の「路面電車」政策に足りない重要な視点 セルフサービスの運賃収受が成功の鍵を握る

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セルフサービス方式の採用によって、路面電車の利便性と機能は飛躍的に向上する。戦後、スイス、西ドイツ、オーストリア、オランダなどのヨーロッパ諸国は、①表定速度向上、②利便性向上、③輸送力向上、④乗務員の生産性向上の4つに一貫して取り組んだ結果、路面電車システムを中量輸送システムLRTに成長させた。これら①~④の4つの取り組みのすべてが、セルフサービス方式の採用なしでは達成できない。

セルフサービス方式は、路面電車の近代化、LRT化にあたっての「核心」なのだ。わが国では、車両の近代化、軌道の駅前広場への引き込み、乗車券のICカード化など、これら4つの取り組みに関わることをそれなりに実施したが、「核心」を衝いていないためにすべてが中途半端のままで今日に至っている。

現行の運賃収受方式に路面電車の明日はない

ICカード化は、確かに現金扱いよりも運賃収受の所要時間は短縮される。しかし、現在の運賃収受方式、つまり運転士が乗客から一人ずつ順番に運賃収受する方式では短縮効果は僅少に過ぎない。現行の運賃収受方式を是としていては、路面電車の明日はない。「核心」を衝かなければ状況は変わらない。

『路面電車ー運賃収受が成功のカギとなる!?』(成山堂書店)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

わが国でセルフサービス方式を採用するには、解決すべき課題は多い。ヨーロッパでは、交通行政当局と路面電車事業者、そして市民の努力で解決してきた。利便性の高い公共交通を手に入れたい、そのためにはセルフサービス方式に協力するという市民の熱い心、それに応える努力を惜しまない路面電車事業者、そしてこれらの努力を支援しリードする行政の力、ヨーロッパ諸国ではこれらすべてがバランスよく協働した結果、LRTが誕生したのだ。

「人に優しい、環境にやさしい路面電車」と、わが国では喧伝されるが利便性が低ければ人には優しくなく、マイカーからの転移も進まないから環境にも優しくない。単なる都市交通問題としてだけではなく、市民全体とそこに事業を営む事業所全体に関わる「街づくり」の観点から取り組めば必ず解決に至る。解決の方策は路面電車先進のヨーロッパに学べば良い。

柚原 誠 技術士(機械部門)

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ゆはら まこと / Makoto Yuhara

1943年生まれ。岐阜大学工学部卒業。名古屋鉄道入社。鉄軌道車両の新造、改造、保守業務に従事。運転保安部長、交通事業本部副本部長、代表取締役副社長・鉄道事業本部長・安全統括管理者を経て2009年退任。この間に「人に優しい次世代ライトレール・システムの開発研究に関する検討会」に委員として参画。鉄道友の会副会長。技術士(機械部門)。

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