ロヒンギャが直面する想像以上に深刻な対立 ヒンドゥー教徒・仏教徒も命の危険に怯える

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仏教寺院で祈る仏教徒。増えるロヒンギャ難民にバングラデシュの仏教徒は危機感を募らせる(コックスバザール郊外の町ラモ)

今回の難民の大量流出は、ロヒンギャの武装勢力とミャンマーの軍治安部隊の衝突がきっかけだった。背景にあるのはミャンマー南部ラカイン州に住むイスラム教徒ロヒンギャへの、長年にわたる仏教徒たちからの迫害とされる。政府はロヒンギャを「ベンガル人の移民」などと呼び、少数民族として認めてもいない。

そもそもロヒンギャとはどんな人たちなのか。歴史的、民族的な特長で括られる存在なのか。イスラム教でつながる彼らの宗教的エスニシティ(ひとつの共通な文化をわかち合い、その出自によって定義される社会集団)を指すのか。実は明確には定まってない。

この地域を研究する専門家たちに実際に聞いても、意見は分かれる。さらにロヒンギャが暮らしていたラカイン州には、ロヒンギャと同じベンガル系住民のヒンドゥー教徒が隣り合って暮らす。

バングラデシュの難民キャンプで彼らは、「ヒンドゥー・ロヒンギャ」という名称で難民登録さえされていた。ロヒンギャ問題の解決の難しさは、この地域の人々が形成するアイデンティティの複雑さにも一因があるのだろう。

国家間での難民の押し付け合いが始まっている

ミャンマーとバングラデシュ両国は11月、ロヒンギャ難民の帰還を進める合意書に署名をした。しかし、具体的な帰還手続きや期限は盛り込まれてはいない。難民化したロヒンギャという“厄介者”を早期返還したいバングラデシュ側と、追い払った異分子はもう受け入れたくないミャンマー側。合意からは問題解決の意思よりも、難民を押し付け合う両国の思惑がいっそう透けて見えてしまう。

バングラデシュの中で、今回の事態をもっとも危惧しているのは国内の仏教徒たちだ。ミャンマーとは逆に、バングラデシュでは仏教徒は少数派であり、イスラム教徒から迫害を受ける立場だとされる。コックスバザール郊外に約3万人の仏教徒が住む「ラモ」という町があるが、ここでは5年前、イスラム教徒によって12の仏教寺院などが襲撃され焼失した。

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