ホンダのスクーターがインドで爆走する理由 現地独特の価値観に寄り添い、地道に拡大

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インドではバイクによる死亡事故が後を絶たない。毎日300人の子どもがバイク事故で命を落とすという交通事情を受け、ホンダは女性や子ども、法人向けにバイクの乗り方や交通安全を教える施設、「トラフィックトレーニングパーク」を現地の警察などと共同で運営している。

ホンダは安全講習施設「トラフィックトレーニングパーク」では、女性や子どもなどにバイクの乗り方を教えている(記者撮影)

教室はインド国内の15カ所拠点で開かれており、小学校から大学まで出張授業も行っているという。他の地場メーカーが継続的に取り組めていない独自のCSR(企業の社会的責任)事業だ。こうした取り組みを拡大することでホンダのイメージアップを図り、ゆくゆくは販売を押し上げたい考えだ。

さらにホンダへの追い風となりうるものがある。「バーラトステージ6(BS6)」と呼ばれる排ガスの新規制だ。BS6は2020年からの適用を予定しており、同じく2020年から適用される欧州の排ガス規制「ユーロ5」と同じレベルだ。インドでは2017年に「BS4」(「ユーロ3」と同レベル)が始まったばかりだが、さらにNOx(窒素酸化物)の排出量を70~85%削減しなければならない。たった3年の間に規制ランクを一気に2段階上げる形だ。

この背景には、インドの深刻な大気汚染がある。首都ニューデリーでは2017年12月24日現在、大気汚染の指数「AQI」が332(北京は124)と「危険(Hazardous)」レベルに達している。要因の2割程度が自動車やバイクなどの排ガスといわれているうえ、国際的な圧力もあり、政府は環境対策の強化を急ぐ。2030年までに自動車の全車両を電気自動車とするという目標を打ち立てたのもその一つだ。

ホンダは排ガス規制を”味方”にできるか

各社は排ガス処理の新技術を導入せざるをえず、商品への価格転嫁は必至だ。その点、ホンダは現地メーカーよりも技術力で優位と見る声は多い。ユーロ5レベルに対応する先進国向けの量産技術を活用し、インドでの価格転嫁を抑えることができれば、ホンダは一気に巻き返せるのではないかという期待もある。また、TVS社は独BMW、業界4位のバジャージ社は英トライアンフと、それぞれ欧州の2輪大手メーカーと技術提携関係にあるが、業界トップのヒーロー社は提携の話が出ていない。

ホンダのインド2輪事業を取り仕切るHMSIの加藤稔社長(記者撮影)

ホンダでインドの2輪事業トップを務める加藤稔・HMSI社長は、「すべてのバイクメーカーがインドに注目している」と話す。2018年1月1日付で就任したヤマハ発動機の日高祥博新社長も、「2018年に市場が伸びるのはインドだ。これまで進めてきた投資の成果を発揮し、利益を伸ばしていく」と語る。

加藤社長は「シェアはあくまで結果にすぎない」と冷静だ。一方で、「(最大市場といえども)インドのバイク保有台数は11人に1台というレベル。今後5~10年で全人口の7割、約10億人が購買層になる」と期待を寄せる。ポテンシャルが高い重要市場のインドでホンダがシェアトップを奪取できれば、ホンダの2輪事業全体に大きな弾みがつく。盤石な地場メーカーとの真っ向勝負は、これからが本番だ。

森川 郁子 東洋経済 記者

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もりかわ いくこ / Ikuko Morikawa

自動車・部品メーカー担当。慶応義塾大学法学部在学中、メキシコ国立自治大学に留学。2017年、東洋経済新報社入社。趣味はドライブと都内の芝生探し、休日は鈍行列車の旅に出ている。

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