小田急新型ロマンスカー「過剰な装飾は不要」 ブームに背を向け、木材の使用を極力減らす

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「私は絵描きではないので、単に形や色を決めるだけにはしたくなかった。その代わり、鉄道車両の技術はわからないので、最初にきちんと理解したうえでデザインに臨んだ」と、岡部氏は2010年当時の本誌取材で語っている。引き受ける前に3カ月ほどかけて鉄道の構造を勉強し、コンセプトを練った。そしてわかったことは、「鉄道は自動車よりも建築物に近い」ということだった。

自動車も鉄道も交通手段という点では同じだが、どこへでも移動できる自動車に対して、鉄道は基本的には同じ場所を行き来する。つまり、全長100mを優に超える巨大建造物が風景に溶け込むかどうかを岡部氏は重視した。内装には、住宅の居間のような心地よさが必要と考えた。

岡部憲明氏がデザインを手がけたVSEの内装。1両の長さが通常の列車よりも短いが、天井の高さを通常よりも40~45cm高くしたことで、車両の奥行き感を出すことができた(記者撮影)

VSEに関する小田急の要望に対し、岡部氏の提案は構造面にまで踏み込んだものだった。「列車はシンメトリー(左右対称)であるべき」として、小田急が11両を前提としていた車両を偶数の10両編成にした。11両だと真ん中に当たる6号車の乗降口が片側だけなので、シンメトリーにならないからだ。

またVSE は1両の長さ(中間車)が13.8mしかなく、20mある通常の列車と比べ奥行き感がないことから、代わりに天井の高さを通常よりも40~45cm高い2m55cmとして、広さを感じられるようにした。そのスペースを捻出するためにエアコンを床下や出入り口付近に配置した。

GSEでは観光と通勤という異なるニーズを同時に満たすため、シンプルなデザインに徹して、居住空間のような心地よさを追求した。

将来は駅舎デザインも?

欧州での鉄道旅行が好きだという岡部氏は、ミラノやパリの駅舎デザインにあこがれている。ヨーロッパのターミナル駅は天井が高く、隅々まで見渡すことができる。空間が広いので自分がどこにいるかがすぐわかり、どの列車に乗るか迷うことがない。「駅のデザインに興味はありませんか」と問いかけると、即座に「やりたいですねえ」と相好を崩した。

岡部氏がデザインを手掛ける駅は、ロマンスカーや国際空港と同様、きっとインターナショナルな心地よさが重視されたものになるに違いない。少なくとも、現在の日本の都会のターミナル駅のように複雑でわかりにくいものにはならないだろう。小田急には近い将来、新宿駅周辺の再開発が控える。巨大プロジェクトの設計図はどのようなものになるのだろうか。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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