小田急新型ロマンスカー「過剰な装飾は不要」 ブームに背を向け、木材の使用を極力減らす
昨今の観光列車は、従来素材よりも温かみがあるという理由から天井、座席、床などの素材に木材が広く使われている。この点については岡部氏は「GSEでも木材の質感は十分取り入れており、木のぬくもりは感じられるはず」としたうえで、「木材を使いすぎると空間が重たくなる」と、懸念を示す。デザインが「和風」になることも避けたかったという。
逆に岡部氏が追求したのは「インターナショナルな心地よさ」。つまり、あらゆる国の人、あらゆる世代の人が、繰り返し乗車しても、つねに「快適だ」と言わせるだけのクオリティである。
岡部氏はGSEのほかにもVSEやMSEなどのロマンスカーのデザインを担当。小田急グループの箱根登山鉄道の「アレグラ号」や大山観光電鉄のケーブルカーなどのデザインも手掛けている。
しかし、本業は国際舞台で活躍する建築家だ。1970年代に名建築家、レンゾ・ピアノ氏の下で修業を積み、フランスのポンピドゥー・センターの設計に参加。イタリアではフィアットの新コンセプトカーのデザインに従事した。
日本では関西国際空港旅客ターミナルビルを設計している。特徴的な大屋根のデザインだけでなく、出発ラウンジに設置されるロビーチェアひとつとっても、インターナショナルな心地よさを求めて欧米の空港で使われているいすをチェックして回った。その岡部氏だからこそ、日本人だけでなく外国人も快適と考えるデザインを重視するのは当然の帰結だった。
「鉄道は自動車よりも建築物に近い」
小田急と岡部氏の出会いは今から15年ほど前にさかのぼる。
当時は箱根への交通手段として自動車が伸び、ロマンスカー利用が落ち込んでいた時期だ。小田急はロマンスカーブランドの再興を目指して、フラッグシップとなるVSEの製造を決断。そのデザイナーを探していた。
世界に通用するデザインを目指し、外国人デザイナーも候補に上った。しかし、「外国人では逆に、箱根に1泊2日の温泉旅行に行くという日本的心情を理解してもらうのは難しい」(小田急)という理由から、海外で活躍した実績がある日本人に的を絞った。
そして、建築家、エンジニア、デザイナーなど10数人と面談した結果、建築だけでなく自動車や豪華客船のデザインにも携わった実績のある岡部氏に白羽の矢が立った。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら