米国が突然エルサレムを首都に認定する事情

アラブ諸国は一斉に反発の声

イスラム教徒にとっても、エルサレムは特別な場所だ。コーラン第17章の「夜の旅」章には、「かれに栄光あれ。そのしもべを(メッカの)聖なるモスクからわれが周囲を祝福した至遠の(エルサレムの)モスクに夜間旅をさせた」と記されている。預言者ムハンマドは、天馬に乗ってエルサレムのモスクに至り、そこから昇天して歴代の預言者たちに会ったといわれる。

イスラム教徒にとって、ムハンマドが誕生し、カアバ神殿のあるメッカは第一の聖地で 、それに次ぐ聖地はムハンマドが亡くなったメディナであるが、エルサレムにも特別な思い入れがある。

イスラエルは1948年の第1次中東戦争で西エルサレムを獲得し、1967年の第3次中東戦争で占領した東エルサレムを併合、エルサレム全域を「永久不可分の首都」として実効支配。1980年にはエルサレム基本法によって、1967年6月の首都宣言の成文化を行った。

憤りを感じるイスラム教徒たち

一方、パレスチナも東エルサレムを首都とする国家樹立を目標にしており、日本政府も含めて国際社会は、双方の交渉で最終的な帰属が決められるべきだとの立場を取ってきた。

ところが、トランプ政権はこうした国際社会の総意を無視する形で、一方的に「エルサレムはイスラエルの首都である」と認めたのである。イスラエルが実効支配していることから、多くのイスラム教徒にとってエルサレム訪問は事実上難しく、東エルサレムを首都とするパレスチナ国家が創設された際には訪問したいと願う信徒も少なくない。

トランプ政権の動きは、こうした信徒の感情を無視したものであり、知人のパレスチナ人は筆者に「周りでは怒りが渦巻いている」と語った。

今回の決定は、大統領上級顧問であるトランプ氏の娘婿ジャレッド・クシュナー氏の意向が働いているようだ。ユダヤ教徒でナチス・ドイツのホロコーストの生存者を祖父に持つクシュナー氏は現在、イスラエル寄りの中東和平案をまとめており、今回の問題は、パレスチナ側にとって不利となる見通しの和平案をパレスチナ側に呑ませるための前哨戦というわけだ。

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