ラーメン「幸楽苑」、赤字100店舗超の崖っ縁 「いきなり!ステーキ」転換で血路は開けるか

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利益ではとっくの昔に幸楽苑を上回っており、過去5年平均の売上高営業利益率も12%弱と、2%に満たない幸楽苑とは比較にならない。

幸楽苑では、震災前の2010年3月期に過去最高の純利益を記録して以来、利益の低落傾向が続いてきた。特に2013年3月期以降は、競合激化による既存店の売り上げの落ち込みや、食材費の高騰などで利益水準が一段と低下している。

2015年6月には、食材費や人件費の高騰を理由に幸楽苑の代名詞でもあった290円(税抜き)の「中華そば」の販売を終了した。中華そばはかつて全売上高の3割を超えた看板商品だったが、販売終了以降、客単価は上昇したものの客足が減り、既存店の売り上げは前年を割り込む月が多くなった。

郊外か駅前かが、明暗を分けた

決算説明会で「初の赤字」に言及する新井田傳社長(記者撮影)

ハイデイ日高との差は、いったいどこからくるのか。ラーメンやギョーザを中心とするメニューに大差はない。

最大の違いは立地戦略にある。幸楽苑が北海道から広島、愛媛まで広範囲にわたり、郊外の路面店を中心に店舗を展開しているのに対し、ハイデイ日高は首都圏の駅前や繁華街に集中出店している。

立地戦略などの違いから、ハイデイ日高のほうが1店舗当たりの売上高は3割以上も多い。幸楽苑では、競争の激しい北海道や知名度の低い西日本には赤字店が多く、西日本ではこれまでも出退店を繰り返してきた。

駅前・繁華街立地を生かし、ハイデイ日高ではつまみメニューを増やして「ちょい飲み」需要を取り込み、好採算のアルコールを含めて売り上げを順調に伸ばしているが、郊外店の多い幸楽苑では車での来店客が多く飲酒運転になってしまうため、それもできない。

アルコールの売上構成比に占める割合は、直近でハイデイ日高が17%に達する一方、幸楽苑はソフトドリンクを含めてもわずか2%だ。両社の1店当たり売り上げの差は、アルコール販売の差による部分が大きい。

ちなみに、売上原価率はハイデイ日高のほうがやや低いが、これもアルコール販売の差で説明できる。加えて、営業利益率の大きな差につながっているのは、売上高人件費比率の差だ。幸楽苑のほうが売り上げが少ないのに店舗数は多いため、正社員数が多くなり、当然、売上高人件費比率は高くなる。

幸楽苑にとって大きな打撃となったのは、2016年9月に静岡県の店舗で発生し、10月に発覚した異物混入事故だ。

これは、調理作業中に誤って切断されたパート店員の指先部分が商品に混入してしまったもの。事故発覚後、客数が急速に減り、売り上げは落ち込んだ。昨年10月の既存店売り上げは前年同期比6.4%減、11月には実に同15.6%減となった。その後は少しずつ持ち直したものの、2016年下期の既存店売り上げは同5.4%減と苦戦した。

事故の影響はいまだに尾を引く。2017年上期の既存店売り上げは前年同期比2%減。ハイデイ日高が、客数増に支えられてプラス圏を維持しているのとは対照的だ。

幸楽苑でも、できるかぎりの対応策に努めてきた。外部専門家を含む再発防止対策委員会で対策をまとめ、本部への情報伝達体制を強化。事故の原因となったチャーシュースライサーを全店から撤去し、工場一括作業に切り替えた。

また、郊外路面店の8割近い約300店の看板や店舗外壁をこれまでの黄色と黒から緑と白を基調としたものに改装、イメージチェンジを図っている。

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