「白取千夏雄さんに相談しました。白取さんとはブログを通して2010年ごろに知り合い、友人付き合いをさせてもらっていました」
白取千夏雄氏は、伝説的漫画誌『ガロ』(青林堂)の副編集長だった人だ。1984年に青林堂に入社した後ガロが休刊になるまで携わった。
「『人妻人形・アイ』の単行本が出版されなさそうなんだけど、僕個人がおカネを出して出版できないものですか?と聞いてみると『できなくはない』と言われました」
まずは何はともあれ作者である三条友美先生に連絡をしなさいと言われたので、編集部に連絡をした。運良く連絡先を教えてもらえたので三条先生に連絡を取った。どのように単行本にするか考えているところだと吉報が舞い込んだ。『人妻人形・アイ』が版元から正式に単行本が発売されることが決まったのだ。
「ちゃんと単行本として発売されるのが一番ですから素直にうれしかったですね。ただ僕も動き出していましたから、やめてしまうのはもったいないなと思いました。三条先生の単行本未収録のホラー短編が20本あったので、この作品を単行本化させていただけないか、図々しくもお願いしました。ありがたいことに快諾していただけました」
未経験のまま単行本を製作
そして、まったく未経験のまま単行本を製作することになった。
「白取さんに『編集を教えてください』とお願いすると、白取さんにはむしろ『広報と営業を覚えなさい』と言われました」
「大手が単行本を出さないのには、出さないだけの理由がある」と白取さんは言った。それを個人が出して、ちゃんと読みたい人の元に届くようにするのは、とても大変な作業だ。「自分で出版する」というのは誰でも思いつくやり方だが、成功するには一筋縄ではいかない。
「広報活動として、作業の裏側をすべてSNSで見せていくことにしました。プロジェクト自体をドラマティックに表現することで、読者に応援してもらえるのではないか?と思ったのです」
「レーベルを立ち上げました」「表紙が完成しました」「通販サイトを立ち上げました」
本を作る一挙手一投足を、1年がかりで見せた。「ファンが高じて、単行本を作るまでにこじらせてしまった男=劇画狼」を楽しんでくれる読者は多かった。
敬愛する三条先生の単行本を、伝説の編集者である白取さんを巻き込んで作る以上「素人にしてはよくできたね」というレベルで終わらせるわけにはいかない。商業出版と変わらないクオリティ、いやそれ以上のクオリティで出さなければ意味がない。
そしてそのうえで、出版社と同じ10%の印税を払う。
「昼間の仕事は生産管理や資材発注が中心なんです。売価に対してコストをどうかけるか、締め切りに対して生産計画をどう立てるかなどはお手のものだったので、本を作る際にも生かすことができました」
考えた末、初版は1000部に決めた。委託はほんの少しで、ほとんどは通販サイトで販売する。
そして2013年の3月、おおかみ書房としては1冊目となる『寄生少女』(三条友美)が発売された。劇画狼さんが白取さんに相談してからちょうど1年のタイミングだった。
順調に販売は進み、なんと1カ月半で売り切った。
「うれしかったですよ!! 関わった人には全員キチンとギャラを渡せました。電子書籍ならどれだけ売れなくても損は出ないかもしれないけど、やっぱり紙の本で作りたいんですよ。ただのデータではなく、宝物にしてあげたいんです。どこから見てもいいものを作りたいんです」
2013年の11月、前回未収録だった作品を集めた『アリスの家』(三条友美)を発売し、こちらは1200部を完売した。
3作目は漫画ではなく、エッセイ集に挑戦する。バンド「ロマンポルシェ。」のボーカル、掟ポルシェ先生がさまざまな雑誌で書いたエッセイをまとめた本だ。
こちらは3カ月で2000部を売った。
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