「日本版トマホーク」は今の憲法を逸脱する 敵基地攻撃には「憲法9条改正」が絶対条件

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4つ目の防御能力については、敵の基地を自衛的に先制攻撃しても、敵から圧倒的な反撃が来た場合に、それに対応できる防御能力を持つことが必要になる。単に槍を持って相手のランチャーをいくつか破壊するだけではなく、反撃された際にきちんと対応できるトータルな防衛システムの構築が求められる。

防衛省は8月、過去最大の5兆2551億円に及んだ2018年度予算の概算要求で、「島嶼(とうしょ)防衛用」を前面にアピールしながら、将来の敵基地攻撃能力にもなりうる日本独自のミサイル開発のための研究費を盛り込んだ。新対艦誘導弾(要求額77億円)は、レーダーに映りにくいステルス化が施され、米国の巡航ミサイル「トマホーク」と同じように翼とエンジンを備える。また、「高速滑空弾」(同100億円)は対地攻撃用で、ロケットモーターで飛び、高速で滑空しながら目標を狙う。

この高速滑空弾について、元陸将で元東部方面総監の渡部悦和氏は9月14日放映のBSフジ「プライムニュース」で、「科学技術の進展とともに通常戦力でも核兵器と似たような破壊力がある兵器が逐次出てきている。だから、通常戦力を持つことによって抑止をする。その通常戦力というのは実は敵基地攻撃能力。弾道ミサイルをさらに強力にした、極高速な滑空飛翔体というのがある」と指摘した。

自衛隊と米軍の役割分担の見直しにも発展

これまでみてきたように、敵基地攻撃能力を日本が持てば、自衛隊と米軍の役割分担の見直しにつながる。新たな装備システムには莫大な費用がかかる。また、そもそも安倍首相が敵基地攻撃能力について「現時点で具体的な検討を行う予定はない」と明言するなか、防衛省内で事実上、先を見据えた関連の研究開発が進んでいるのは、シビリアンコントロール上、問題だ。

ハードルは高いが、筆者は、北朝鮮の脅威や中国の海洋進出が増大するなか、敵基地攻撃能力の保有に向けた防衛力整備は必要不可欠だと思っている。その能力の保有は、日本の国防政策の基本の「専守防衛」に「攻勢防御」を加えようとするもの。これまで打撃力を米国に委ね、自らの安全保障の基盤を米国に大きく依存してきた国防政策の大きな転換になりうる。

元陸上自衛隊北部方面総監の志方俊之・帝京大名誉教授は筆者の取材に対し、「安保法制には集団的自衛権の行使要件として『存立危機事態』が盛り込まれている。(在日米軍がある)日本を北朝鮮がミサイル攻撃する前に、日本が敵基地攻撃をするかどうかは、この『存立危機事態』にあたるかどうかがカギとなる。あとから国会などで問題にならないよう判断しなくてはいけない」と話した。

「存立危機事態」の要件にかなえば、現法下でも敵基地攻撃は可能との見方だ。しかし、本来はやはりきちんと憲法9条を改正し、敵基地攻撃能力が自衛権の行使であることを明確にした方が望ましいだろう。

政府は2018年末、5年ごとの中期防衛力整備計画を新しく作成する予定だ。中期防に敵基地攻撃が可能な武器体系が含まれるかどうかにも大いに注目が集まる。国民を巻き込んだ国会での腰を据えた論議が望まれる。

高橋 浩祐 米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

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たかはし こうすけ / Kosuke Takahashi

米外交・安全保障専門オンライン誌『ディプロマット』東京特派員。英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』前特派員。1993年3月慶応義塾大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターなどを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務めた経験を持つ。

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