運転のプロが職場に「デリヘル」を選んだ必然 「デリヘルドライバーはスピードが命」

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違法な高級売春デートクラブのドライバーもやった。最低料金が90分3万5000円、プラス交通費5000円。つまり客は最低でも4万円支払う。しかも1泊数万円の高級ホテルから嬢を呼ぶのだ。

なぜそんなに高額なのかというと、女性のレベルが圧倒的に高かったからだ。裏で芸能プロダクションと繋がっていて、嬢たちは楠田にははっきりとは言わなかったが、どうやらあまり仕事のないグラビアアイドルや、レースクイーンのようだった。

事務所はオートロックの高級マンション、彼らドライバーはインターフォンの押し方が決まっていた。2回続けて押してもう1度押す。「尾行はついていません」という合図だった。当然監視カメラはあるが、背後に警察官が隠れている可能性があるからだ。そういう危険もあるためか、ドライバーのギャラも日給1万5000円と高かった。

しかしその店はやはり希有な存在だった。冒頭に書いたように、世のデフレ化が進むにつれ、デリヘルはダンピングとカジュアル化が進む。次に勤めた店が、その象徴的なスタイルだろう。「強烈に稼働してる店だった」と楠田は回想する。

店長が切れ者だった。元大学の准教授で、常に3件、4件先まで先を読んだ配車を組む。嬢は常時2、3人車に乗る。たとえば練馬でA子さんを拾って石神井へ送り、その足でB子さんを阿佐ヶ谷へと、全部ローテーションが事細かく作られていた。取材時に楠田が開口一番言ったセリフは、実は彼がその店長から面接のときに言われた言葉だったという。「楠田さん、デリヘルドライバーはスピードが命ですから」と。

やってみるとまさに店長の言う通りだった。1件で6分短縮すれば、もしもドライバーが1日10本やるとしたら、合計で1時間浮く。その店は60分2万円のコースが基本だったので、単純に女の子ひとり分の稼ぎが増えるのだ。逆に言えば、そのような企業努力をしなければ、デリヘルは儲からない時代になっていたということだ。

かつてサラリーマンが酔った勢いで同僚とピンクサロンやファッションヘルスへ繰り出し、たとえサービスの悪い女が出てきても「酒のうえの遊び」と笑い話にしていた。そんな頃は遠くに去っていた。楠田によれば、そういう店なので嬢たちの意識も高かったという。彼女たちは、自分から率先して電話営業までした。

売れっ子になる娘が持ち合わせているもの

前の客の自宅近くから待機所に帰るまで、後部座席に乗せて走っていると、「すみません、ここから護国寺って近いですよね」と聞かれる。「うん、すぐだよ」と答えると、彼女は自分の携帯で常連客に電話し始めるのだ。「ねえ、今近くにいるの。これから行っていい?」と。まるで彼女じゃないか? 客はもちろん喜んでOKする。

このような様子を目の当たりにした楠田は、「デリヘル嬢は決して若さや顔、スタイルじゃない」と断言する。「聞き上手、甘え上手、一緒にいて楽しい、ほっこりする、癒やされる、そういう娘が売れっ子になる」と。つまりコミュニケーション能力の高さと性格の良さだ。

そんなデリヘル嬢たちの、飾らない素の姿を垣間見られるのもまた、デリヘルドライバーだけだと彼は主張する。「客の前でネコかぶるのは当然だよね。リピートしてほしいから。経営者や内勤の男性スタッフの前でも、やっぱりネコかぶるよ。いい客を回してもらいたいから。ただ、ドライバーに媚び売っても何の得にもならないからね。ツンとしたヤツはツンとしてるし、あからさまに横柄なヤツもいる。でも売れる娘ってのは、俺たちにだってやはり感じがいいんだ」と。

たとえばこんなことがある。ハンドルを握っていると「飲み物買いたいので、コンビニ寄ってもらえますか?」と言われる。「いいよ」と車を停めると、彼女は楠田の分も飲み物を買ってきてくれる。しかもそれは、彼が好きな銘柄の缶コーヒーだったりする。「つまり俺がいつも何を飲んでるのか、彼女はしっかり見てるわけだ。そういう細やかな気遣いのできる娘が人気者になる。売れるんだよ」。

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