日本人が知らないカンボジアの強権化と独裁 現地取材したジャーナリストが実態を告発
高橋:私がここ最近で取材してきたのは、土地強制収奪の被害にあう人たちの姿です。カンボジアでは2001年に土地法が改定されました。ポル・ポト政権下での内戦よって崩壊した法律が立て直され、動き出したのが2000年代。それによって人々の土地は、自らの土地として証明されるようになったにもかかわらず、プノンペンの土地開発によって有益だと思われる場所に住んでいる人々の土地が、開発業者と政権の結びつく開発事業によって、とてもそれは受け入れられない保証案を提示され、それを拒むと暴力を用いて強制的に家々を奪われていく状況をここ5、6年見てきました。
その開発に関与している国は、中国やベトナム、そしてカンボジア国内の、力を持ち政権とつながりのある開発企業。カンボジアのプノンペンは高層ビルが立ち並び、ポル・ポト政権の内戦で荒廃した大地から復興を果たしているように見えますが、それは人々の涙や血が浸透してしまった上での開発のような気がして。私は夜の夜景を見ると、彼らの願いや戦っている姿を見てきただけに心が痛くなり、複雑な気持ちになってしまいます。
堀:いわゆる、富の偏在ですよね。一部の力を持った、国家と結びついた企業や集団は富を得ることができ、その開発の恩恵も受けることができる。しかし、力なき民はそこに関わることもできず、なおかつ人権を抑圧されてしまう。そういう構図がカンボジアで進行しているということですね。ただ、最近では日本からカンボジアに観光に行かれる方もいらっしゃいますが、カンボジアを蝕んできた状況というのを、恥ずかしながら私も知らなかったんです。そういう状況について、高橋さんはどのような眼差しを持って取材をされてきましたか?
高橋:たとえば、最大の観光都市でアンコール遺跡群の観光拠点であるシェムリアップだけを1、2週間旅するという形でカンボジアを見つめるのであれば、今起きているカンボジアの現状に一切触れることなく帰ることができると思います。現地に暮らしている日本の方々の中でも、その場所や国で起きていることに関心を強く持たない限り、その情報にタッチすることは難しい。僕自身としては、そういう現場を見続けてきましたから、そのギャップに苦しむこともあります。
堀:日本からも投資や政府開発援助のような形で、現政権のカンボジアにも支援が入っていますよね? 日本政府はどのような反応だったのでしょうか?
高橋:現地ではなかなかそういう情報が上がってきませんし、日本は1993年以降カンボジアの最大の支援国の1つであり続けていますから、インフラ面も含めカンボジアに多大なる支援、投資をしてきたと思います。今の状況を一概に否定してしまうのは、日本にとって動きづらい状況があるのではないかと思います。
「当たり前の権利、当たり前の正義が守られる」社会へ
堀:カンボジアの今の構図を聞くと、モザンビークでも日本国際ボランティアセンター(JVC)の職員の方がビザが発給されなくて困っているという話を思い出します。JVCさんがモザンビークでの盛んな投資によって土地の強制収奪が行われている状況に対し、改善すべきだという声を国際社会に訴える活動を行ってきたために、ビザが下りない事態に。また、ジンバブエのクーデターも。最大の貿易国は中国ですし、投資が現大統領に集中していたんじゃないかとも言われています。グローバル経済の名の下に、声なき声がどんどん黙殺されていますよね。このまま放置しておくと、カンボジアは今後どういう未来をたどっていくことになりそうでしょうか?
高橋:残念ながら、先ほどお話ししたように、変革と民主化の確立を訴えて2013年の総選挙から急速に、特に若者の支持を集め続けてきたカンボジアの最大野党「カンボジア救国党」が、今日(11月16日)まさに解党に追い込まれ、さらにその事実を伝えるはずのメディアも弾圧を受けています。このままの状況が続くと、さらに強権的な独裁化が進むでしょう。この動きは政権自らが「われわれは公正な選挙をする意思がない」と社会に示してしまったようなもの。その選挙が来年2018年にあるのですが、この動きが続くと選挙をする意味もないと僕は思います。