日本人が知らないカンボジアの強権化と独裁 現地取材したジャーナリストが実態を告発

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高橋:カンボジアの今に至る状況を理解するには、ポル・ポト政権以後の歴史を見つめていかないと理解できないと思います。ポル・ポト政権下では、推定170万人ともいわれる多くの国民が抹殺され、国の基盤のすべてが崩壊してしまいました。そして国の正義を担うはずの法律家や検察官、そして警察官含め、そのような人々のほとんどが殺されてしまったわけです。まさにゼロに近い状態から国づくりをしていかなくてはならない中、カンボジアはポル・ポト政権が終わった直後から、冷戦構造の渦に飲み込まれながら、同じ国民同士が殺し合わせられるという状況に陥るのです。

その中で、プノンペンの政権のトップに立ったのが、今のフン・セン政権。1985年の1月からといわれているのですが、32年間の強権支配体制を敷いてきています。その混乱期にありながらも、カンボジアはフン・セン政権によって地方末端に至るまで、彼が率いる「カンボジア人民党」の支持者や構成員を増やしていきました。最高幹部といわれる32人のメンバーで構成されているのですが、その32人の多くが司法を司る部門、警察や軍、それらの主要機関のトップに立っています。必ず「カンボジア人民党」にとっての有利な判決が下されることを、彼らの言う「合法的」な形の中で作り上げてきたという歴史があるために、今の現状に至っているのではないかと思っています。

市民社会への影響も 開発の裏にある土地強制収奪

:混乱を抱えた国々の状況、混乱期を乗り越えるためには、ある程度強権を持ったリーダーが国を統治し、ある程度人権が蔑(ないがし)ろにされていくものの、国全体の安定や、それによる海外からの投資を呼び込む。市民の権利よりも全体の秩序が重んじられてきたという背景があったのではないかと思いますが、その点はどうなのでしょうか? 一方で、メディアを弾圧し、野党を解体するというのはあまりにも行き過ぎた面があるかと思いますが、なぜそこまでしないと彼らは自分たちの政権基盤を維持できないのでしょうか? フン・セン政権は具体的にどのような弾圧を市民社会に強いてきたのですか?

高橋:市民社会への影響でいうと、昨年大きな事件が起きました。政治評論家として著名だった活動家および政治評論家のケム・レイさんは、勇気を持って政権が行う不正や弾圧について発言し訴えてきました。しかし昨年、暗殺されました。カンボジア市民を代弁してくれるような存在を失ったのです。市民社会でも、暗殺という形を用いてインパクトを与えるという動きにもなってきています。さらに、「カンボジア人民党」を支えている大国が中国ということもあり、軍事的な面でも、経済的な面でも、カンボジアは中国に強く頼っている状況です。1993年からずっと日本を含む欧米諸国は、カンボジアの民主化の確立を求め、支援し、投資し、さまざまな形で国づくりを支えてきました。しかし今、フン・セン政権は彼らの批判を全く受け付けず、中国による制約のない民主化の構築という、付帯条項のない支援を受けることによって、中国という大きなバックアップを得て、強権体制をさらに強化していっていると思います。

:高橋さんが取材をされた写真を拝見したのですが、市民運動の現場で土地を収奪され、建物を奪われ、そして声が届かず投獄されるという、市民たちの現場を取材された写真が大変印象に残っています。いったい、現政権によって市民の何が奪われ、中国はそれにどう関係しているのか、その構図について教えていただけますか?

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