「家族11人殺された」ロヒンギャ少年の悲劇 被害難民が語るミャンマー軍の過酷な弾圧

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逆にミャンマー政府は「ロヒンギャなる民族名を捨てて、イスラム教徒のベンガル人であるさえと認めれば、国籍を与えるにやぶさかではない」という姿勢なのでまったくかみ合わない。ロヒンギャを根こそぎ追い出そうとするミャンマーの強硬姿勢は、多くの日本人が抱いていたであろう同国のイメージと違っていて、筆者もよく消化できずにいる。

当地では国連機関や国際赤十字・赤新月社連盟、国際NGOがバングラデシュ政府や地元NGOなどと連携しながら、食料や衣類、生活用品の配布、安全な水の供給、トイレ建設、医療サービス、子どものケアなど多岐にわたる緊急人道支援を展開している。しかし「あらゆるニーズが膨大にあるが、支援側の資金や人員、調達が追いついていない。特に衛生面の問題が深刻だ」(国連難民高等弁務官事務所:UNHCR本部職員)。

日本のNGOの緊急支援が本格化

日本のNGOによる緊急支援も本格化している。(特定非営利活動法人)ジャパン・プラットフォーム(JPF)加盟の「難民を助ける会」(AAR Japan)などNGO6団体が「ミャンマー避難民支援」として現地で活動を開始した(準備中を含む)。ニーズ調査を踏まえて、衛生用品・生活用品の配布、緊急医療支援などを進めるとともに、もう少し先を見据えた支援を計画する。

時に殺気立つこともある難民キャンプの食料配給所(筆者撮影)

難民キャンプを歩いて少しだけ救われるのは、子どもたちが人懐っこく明るいことだ。筆者は今回初めてロヒンギャの人々に会ったのだが、男女を問わず目がパッチリして、かわいらしい子が多い。

そんな子どもたちが配給所に並んでコメや古着を受け取ったり、井戸で水を汲んだりと家の手伝いをする傍ら、マドラサで仲良くコーランを習い、ビニールで作った小さな凧を上げて遊ぶ姿は、難民キャンプという非日常的な“お祭り騒ぎ”を元気いっぱい楽しんでいるようにさえ見える。

とはいえ、11歳のモハマドが経験したような悲劇を国際社会が看過していいわけでは決してない。現場レベルで難民の命を守る緊急人道支援を加速させるとともに、ミャンマーによる人権侵害の事実関係を究明し、ロヒンギャの人々のために安住の地を確保する必要がある。

いずれも親日的なミャンマー、バングラデシュ両国の間で、日本が果たせる役割が何かあるのではないか。

中坪 央暁 ジャーナリスト

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なかつぼ ひろあき / Hiroaki Nakatsubo

毎日新聞ジャカルタ特派員、編集デスクを経て、国際協力分野の専門ジャーナリストとして南スーダン、ウガンダ北部、フィリピン・ミンダナオ島、ミャンマーのロヒンギャ問題など紛争・難民・平和構築の現地取材を続ける。このほか東ティモール独立、インドネシア・アチェ紛争、アフガニスタン紛争などをカバーし、オーストラリアの先住民アボリジニの村で暮らした経験もある。新聞や月刊総合誌、経済専門誌など執筆多数。

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