東日本大震災の際に、日本で起きた災害にも関わらず円高が進んだのは、上述した4つの要因が背景といえよう。これらが複雑にからみあい、災害発生直後にドル円では約5円程度の円高となった。とはいえ、図表の国際収支の動きで、為替市場における需給バランスが明確に分かるわけではない点には注意が必要だ。
「北朝鮮リスク=円高」が崩れるとき
日本の経常黒字は、いまやそのほとんどが貿易黒字ではなく所得収支黒字となっている。海外投資から得られる配当金や利子などがこれにあたるが、これらはすぐに円転する必要はなく、そのまま海外で再投資されるケースが多いことから、必ずしもダイレクトに円高要因となるわけではない。金融収支も同様である。この赤字が膨らんでいたとしても、機関投資家の外国債券への投資などは一部為替ヘッジを行っているため、すべてが円安要因に効いているわけではない。輸出企業による為替ヘッジや、機関投資家による為替ヘッジは、ある一定の傾向を知ることや企業による公表ベースの調査は可能だが、詳細な動向まではわからないのが実情だ。
また、北朝鮮リスクは、これまでもそうだったように短期的には円高要因だが、より事態が深刻化した場合には、必ずしも円高とは言い切れない点にも注意が必要だろう。仮に米国が先制攻撃を仕掛けたり、その後の混乱が長引いた場合には日本経済にも深刻な影響が及ぶリスクは高い。この場合、日本のマネーが海外に逃避する、あるいは海外勢の投資マネーが日本から逃避するような資本逃避の流れとなれば、いずれは円売りにつながっていく可能性もあるだろう。
短期的なリスクオフであれば、たとえそれが深い調整となったとしてもいずれ相場は値を戻す。しかし、長期的な為替のトレンドを決定づけるのは構造要因であり、それに対してどういった影響を及ぼすかがカギとなる。「北朝鮮リスク=円高」と公式に当てはめずに、それが経済構造にどのようなインパクトをもたらすのかをチェックする必要がある。
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