サウジの王子が11人も「一斉逮捕」された事情 警察からは逮捕理由は一切発表されていない
元駐サウジアラビア米国大使のチャス・W・フリーマンは言う。「一斉逮捕は、昔のシステムへの最後の一撃だった。いまはすべての権力がムハンマド・ビン・サルマンの手に握られている」。
なぜ、皇太子はいま動いたのだろうか。将来の反対勢力となる人々を抑えるためか、あるいは芽生えつつある脅威を潰すためか。いまはまだわかっていない。
父である81歳のサルマン国王が2015年に王位に就くまで、32歳のムハンマド皇太子にはほとんど政治経験がなかった。これまで王国の変化はゆっくりとしたものだったが、皇太子はそれに我慢ができない。
ムハンマド皇太子の性急さの代償
イエメンとの軍事衝突は長期化しているが、サウジアラビアをこの戦いに導いたのがムハンマド皇太子だ。カタールとの戦いでも同様だった。また、国の補助金や浪費に慣れたビジネスエリートに対し、石油への依存を減らして海外からの投資に頼るという、大胆な経済改革計画を示して対決している。
さらには、宗教界の保守派に対しても、厳格な道徳規範を緩和する政策をとって対抗している。たとえば、長い間禁止されていた、女性による自動車の運転の解禁などだ。
しかし、こうしたムハンマド皇太子の性急さからは代償も生じる。サウジアラビアは、国営の巨大石油会社、サウジアラムコの新規株式公開などを通じて民間からの投資を呼び寄せようとしているが、反腐敗の取り締まりが不透明で正規の手続きを欠いていることから、そうした民間の投資家は間違いなくおじけづいている。
皇太子のさまざまな計画に不安を感じるビジネスマンや王族たちは、今回の逮捕が行われる前にも、静かに資産を国外に移していた。