高炉鉄鋼業界の信用力は、変動要素増えるも当面は安定的 《ムーディーズの業界分析》
これらの実績を踏まえて、高炉メーカー各社は投資戦略を積極化させている。高級鋼材を日本の製造業を中心とした長期的取引の顧客に供給するというビジネスモデルの根幹は変えていないが、世界の高級鋼材需要拡大への対応や主要顧客への海外供給体制の拡充を狙って、国内の生産体制の更なる高度化に加えて、ブラジルの上工程プロジェクトやインドにおける展開など、海外における主体的な取り組みも促進されている。また、主原料の鉱山プロジェクトへの投資も積極化している。
海外における上工程を含むプロジェクトは、従来日本の鉄鋼メーカーが行ってきた国内の製鉄所を中心とした投資とは投資額も投資リスクも大きく異なると考えられる。生産規模と製品構成、販売戦略をどのようにバランスさせていくかによって、プロジェクトのリスク特性は変わってくる。
各社は今後、来年度からの次期中期経営計画策定の作業を進めていくと思われるが、総投資額にも積極的な投資戦略が反映されていくと予想される。従って、今後中期的に各社のバランスシートの改善は制約されるとみられる。それでも、これまで進めてきた資本構成と収益基盤の改善、さらに、各社のマネージメントが持つ健全な財務体質を維持する意思から考えると、増加する投資リスクを緩衝する力は、以前よりもかなり大きくなっている。
今後さらに重要性を高めていくことが確実な要因としては、温暖化ガス排出量削減の課題もある。また、様々な形で進んでいる業界再編の動きも重要な業界要因である。
このように、各社の信用力に影響を与える要素の変動性は大きくなってきているが、信用力を支えるクッションも大きくなっている。各社ごとに信用力に影響する要因は異なるものの、これらのバランスから業界全体の信用ファンダメンタルズの方向性を考えると、当面は安定した状態が継続すると予想される。
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