ソフトバンク、米通信「合併交渉破談」の真相 なぜTモバイルとの合併交渉を停止したのか

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ケーブルテレビ会社が参入するなど、米通信業界の競争は激しくなるばかり。大手の中で力不足だったスプリント株は「全株売却がベスト。過半売却がセカンドベスト」(清水研究員)とみられていた。

ところがスプリントは今やSBGの業績牽引役である。スプリントの経営権を手放せば、連結対象から外れ、SBGの業績は大幅減益になりかねない。つまり、スプリントとTモバイルのどちらから見ても、経営権をめぐって揉めることは容易に想像できた。

結果として孫社長はスプリント自体の経営権にこだわった。11月6日には同社に追加出資する方針も発表した。現在の出資比率83%から、上場基準に抵触する可能性がある85%以上にならない範囲で買い増す。

孫社長はその理由について、「まもなく低軌道衛星で通信する時代が来る。今よりも太くて速い高速通信が実現したとき、その利益を最も享受するのは世界最大市場の米国だ。米国に通信会社を持っていてよかった、(ドイツテレコムに)売らなくてよかったと心から思える時代が来る」と述べ、理解を求めた。

「IoT時代ではがぜん有利になる」

スプリントは孫正義社長のいう「IoT時代」に不可欠なインフラなのだろうか(撮影:尾形文繁)

また孫社長は、「人をつなげるのはベライゾンやAT&Tにかなわないが、(半導体開発会社の)英ARMを買収したことでIoT(モノのインターネット)ではがぜん有利な立場にある」などと、交渉中止でスプリントの経営権を保持したメリットを主張。だが、それほどまでにTモバイルとの交渉中止のメリットが大きいのなら、そもそもなぜ合併交渉を始めたのか、という根本的な疑問が湧く。

今後のTモバイル以外との合併交渉について問われると、孫社長は間髪入れず「何でもありだ」と答えた。かつて交渉を模索したとされるケーブルテレビ全米2位、チャーター・コミュニケーションズとの交渉について問われても「何でもありだ」の一点張りだった。

Tモバイルとの交渉が正式に破談してから、まだ2日も経っていない。「何でもありだ」発言の真意は「破談となったばかりでまだ白紙だ」という孫社長の思いの裏返しだったのだろう。

山田 雄一郎 東洋経済 記者

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やまだ ゆういちろう / Yuichiro Yamada

1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。

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