金融機関のリスク規制、自主管理力が問われる


 また、トレーディング勘定についての自己資本賦課。頻繁に売買されるという理由で、資本の賦課がなかった。しかし、流動性のないものも多く、仕組み債は価格が急落すると追加担保を要求されるものも多い。2010年から自己資本を積むことが求められる見通しだ。

SIVなどオフバランスのABCPの発行体に対する流動性補完契約も問題となった。米国はまだバーゼル�(新BIS規制)に移行しておらず、バーゼル�の下では1年未満の契約なら、自己資本を持たなくてもよいとされていた。しかし、事実上、契約のロールオーバーが前提とされているので、バーゼル�では一定量を積むこととされている。だが、その基準も緩いというわけだ。

さらに、今回の金融危機の教訓は、流動性リスクやレピュテーショナルリスク、法務リスクなどについてのリスク管理の不十分さが浮き彫りになったことだ。リスク管理の実務は、基本的に金融機関が自ら決め、それを監督当局が検証する(第二の柱)こととなっている。この中で、ストレステストの実務や流動性リスクに耐えるための流動性補完、資金繰りに係るコンティンジェンシープラン(危機対策)などが求められる。

規制をめぐる政治的攻防

もっとも、バーゼル委員会での議論がすんなりまとまるかどうか、不透明な部分もある。金融危機が起こると、リスクが顕在化し、規制強化の議論が高まる一方で、より信用収縮=貸し渋りを激化させ、経済状況を悪化させるとの反対論も強まる。日本でも、不良債権問題を抱えた下での、BIS規制や金融商品の時価会計の導入には、反発が強かった。

もともと、バーゼル�にはリスク感応度がより高まったことによるプロシクリカリティ(銀行の融資行動の変化が景気変動を増幅させる)があるのではないか、と問題視する意見があり、当局としても慎重にならざるをえない面もある。

事実、米国において、会計基準の設定主体であるFASBが、09年度から、簿外のSPCをオンバランス化する(適格SPEの制度を廃止)としていたが、1年先延ばしとなった。SIVやABCPの発行体が問題とされたために決められたのだが、大手金融機関で総額5兆ドル、シティで1兆ドルという影響の大きさに、反対論が続出したためだ。ただでさえ資本不足なのに、さらに問題が深刻化する、というわけだ。

バーゼル委員会ではBIS自己資本比率のリスク=分母のみならず、将来は自己資本の質=分子について議論することとなっていた。現状で、優先株や優先出資証券、劣後債といったハイブリッド証券を一定程度、資本と認めているが、まっとうな資本である普通株と剰余金の比率を高める方向への規制強化だ。しかし、欧米の大手金融機関がハイブリッド証券を大量に調達している現状では、数年先の話になりそうだ。

『市場リスク-暴落は必然か』の著者リチャード・ブックステーバー氏は、流動性とレバレッジとシステムの複雑性にこそ問題があり、「規制や予防策を塗り重ねても、システムの複雑性が増して、事故がますます頻繁に起こる」だけと言う。

それでも、後戻りができない以上、規制強化は当然の帰結だ。ABCPの発行体やストレステストの問題は、邦銀にとっても対応を迫られる課題だ。リスク管理技術において、欧米が日本より遅れているわけではもちろん、ない。ルールを巡って政治的な攻防があるだけだ。熾烈な信用収縮の中で、いち早く対応したものが生き残る。
(大崎明子 =週刊東洋経済)

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