金正男暗殺、北朝鮮工作員の手口と謎の愛人 たった500ドルの報酬で彼の命は奪われた
金正男氏は記者と会う際も、面会場所の出入り口がどこに、いくつあるのかチェックするほど用心深い性格の持ち主だった。われわれは正男氏の様子を記録した取材メモと記者とやり取りしたメールを徹底的に精査。正男氏が、なぜ殺されなければならなかったのか?10年間の彼の足跡をたどった。
「金正恩政権はラストステージに来ている。身内まで処刑してしまうのだから」
「正恩は老練な幹部の中に取り残されてしまったな」
「僕はいつでも周りに目を光らせているよ」
2013年、正男氏から記者に送られてきたメッセージには、弟・金正恩氏を激しく批判する言葉がつづられていた。
一方で、金正恩氏から脅されているとも話していた。
「ハングルでびっしりと私の悪口が書かれたファクスが自宅に届いた。よく見ると送信元が金正恩の事務所になっていた……」
そして、金正男氏の転落人生が、あの、2001年の成田空港での拘束事件に端を発しているということもわかった。偽造パスポートで日本への不法入国を図ったところ、入管難民法違反で拘束・収容。その後、外交問題への発展を恐れた日本国政府の判断で国外退去処分となり、中国・北京へと移送された事件だ。
金正男氏は記者にこう語っている。
「父(金正日総書記)はカンカンに怒った。そして高英姫(金正恩氏の母)があることないことを言って、自分たちが亡命しようとしていたと、吹き込んだので命が危ないと思い、北京に残ることにした」
金正恩氏の母・高英姫氏が日本での拘束事件を利用して、金正男氏の北朝鮮での後継者としての芽を摘み、海外での放浪生活を余儀なくさせたというのだ。
金正男氏暗殺の真相解明のカギを握る“愛人S”
取材を進めるとマレーシア警察当局が暗殺事件のカギを握る人物として行方を追っている美女の存在に行きついた。その美女とは、正男氏の長年の愛人Sだ。
暗殺事件当日、彼女はどこへ? 私たちは、この女性がマカオに潜んでいるとの情報を得て、現地に飛んだ。きらびやかな電飾が施されたリスボアホテルから橋を渡り、高級住宅街がある。タイパ島へ……その中に一際高くそびえたつ瀟洒な高層マンション。すべてを知る女性、愛人Sはそこにいるという。
今も金正男氏が生きていたら北朝鮮をめぐる国際情勢は違っていたのだろうか? 10月10日の朝鮮労働党創建記念日に向けて新たなミサイル発射の動きが指摘されている。金正恩委員長とドナルド・トランプ米大統領の舌戦も過熱の一途をたどり、北朝鮮はますます孤立している。
もし、金正男氏が生きていたなら、北朝鮮と国際社会を結ぶ有力なチャンネルになれただろう。孤立化への道をつき進む北朝鮮、一筋の希望はもう光を失ってしまっている。
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