SL復活「蒸気を使わずに」走らせた秘密とは?

大阪の企業、鉄道マンらの支援で実現

試運転中のD51。雨にもかかわらず多くの人がその姿を見守った(写真:アチハ株式会社)

ところで、なぜアチハはSLを、しかも圧縮空気で動態保存することにしたのだろうか。このプロジェクトの責任者、阿知波みどりさんに話を聞いた。

「鉄道は、日本の発展や文化を語るうえで欠かせないもの。その象徴でもある蒸気機関車を保存し、後世に伝えていくことが、鉄道車両に携わってきた当社の責務だと考えている」と阿知波さん。これまでアチハが手掛けた鉄道車両輸送は1000両以上。日本国内はもとより、ミャンマーやインドネシア、アルゼンチンなど海外への輸送も数多く手掛け、その名は世界に知れ渡っている。

そして、何両かのSL輸送も手掛ける中で、SLが集める絶大な人気を目の当たりにしたという。「鉄道車両の中でも、SLは別格。子どもからお年寄りまで、見に来られた方の目の輝きが違った。この人たちに、再びSLが走る姿を見てもらい、乗ったり運転したりして五感で楽しんでほしいと思った」。

火を使わず安全に動かせないか

若桜駅で行われた感謝状贈呈式では、阿知波みどり氏(左)から小林町長に感謝状が手渡された(筆者撮影)

だが、実際に走らせるとなると問題は山積みである。SLは石炭を燃やして水を熱し、高圧蒸気を作って動力源とする。この仕組みをそのまま復元するとなると、復元費用だけで数億円、さらにランニングコストも高額となる。また運転にはボイラー技士資格などの国家資格が必要となるほか、火や蒸気を取り扱うため、つねに危険が伴う。

そこでいろいろ調査するうち、圧縮空気を使ってSLを動かす方法があることを知った。これだと初期投資やランニングコストもはるかに安く実現できる一方、圧縮空気の場合は遊具扱いとなり“ホンモノのSL”のように営業路線を走ることはできない。

「弊社は、それでもよいと割り切った。本線を走らせるのは鉄道会社にお願いしようと。弊社にはレールを敷設できるスタッフもいるので、テーマパークや鉄道のないところで走らせ、SLに触れ合い親しんでもらうことに特化することにした。大切なのは、動力方式はどうあれ、静態ではなく動いている姿を皆さんにお見せすることだと思った」(阿知波さん)

そして、その過程で知り合ったのが大日方(旧姓・恒松)孝仁さん。群馬県川場村の「ホテルSL(現・ホテル田園プラザ)」に保存されていたD51を圧縮空気で動かせるようにした人である。阿知波さんは、D51の巨体が圧縮空気で動く姿を見て、その迫力に何ら遜色ないことに感動したという。また、この方法であれば来場者を運転室に入れるハードルも低くなることにも気づいた。

「われわれのSLに対する思いをお話ししたところ共感いただき、協力していただけることになった。恒松さんがいなければ、このプロジェクトが動き出すことはなかった」

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