カンボジアの「独裁化」を看過してはならない 日本人が命まで懸けて民主化に貢献した事実

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経済発展著しいカンボジアだが、ポル・ポト政権時代の100万人を超える大量虐殺、特にインテリ層を集中的に殺害した暗黒の歴史の記憶は生々しく残っている。面会に応じてくれた政府関係者は、「各分野で指導的立場に立つべき人材が圧倒的に不足している」と話していた。ポル・ポト政権が残した負の遺産は今も、カンボジアに深い傷跡を残しているのだ。

この訪問中、私は幸運にもカンボジア政府軍のナンバー3の地位にある幹部に会うことができた。二度とない機会であるから、思い切って30年余りの長期にわたり政権を維持しているフン・セン首相について聞いてみた。その幹部はあたりさわりのない礼賛の言葉でフン・セン首相を評した。

救国党の躍進に危機感を募らせたフン・セン首相

2013年に行われた総選挙で野党の救国党が躍進し与党の人民党に肉薄するという結果が出ていた。長期政権に伴う政治家の汚職や腐敗、それにフン・セン首相の強権的政治手法が批判され、野党の勢いが増していた時期だった。2018年に予定されている次期総選挙では政権交代がありうるともいわれていた。

こうした政治状況の変化について聞くと、その幹部は「カンボジアでは総選挙の投票日から、選挙結果が判明するまで1週間かかる。その間、何が起きるかは誰もわからない」と、何のためらいもなく語ってくれた。軍が動いて選挙結果を覆すこともありうるとでもいうのだろうか。そこで私は「野党が勝った場合は、クーデターがありうるということですか」と重ねて聞いた。彼は「私は上司の指示に従って行動するだけです」と答え、クーデターの可能性を否定しなかったのである。

初対面の外国からの訪問者にここまで率直に話すということに私は感謝しつつも驚いた。しかし、冷静に考えればこの幹部が私にサービスして本音を率直に語る必要はまったくない。おそらく当時の軍幹部は、半ば公然と似たような発言を繰り返し行っていたのだろう。それは、次の総選挙の結果がどうなろうと、政権幹部も軍の幹部もフン・セン政権を維持し、野党に権力を渡すつもりはないという意思表示だ。フン・セン首相の強権政治はこのとき、すでに始まっていたのである。

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