上場企業のインサイダー取引が急増している 背景に公開買い付けや第三者割当増資の増加

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ただ、業務提携や公開買い付けを行おうとすると、複雑な手続きを経る必要があるため、関与する人数がどうしても多くなってしまう。また、提携や買い付けの合意から公表までの期間も長くなりがちだ。その分、インサイダー情報を悪用して利益を上げようとする関係者は多くなる傾向がある。

特に公開買い付けや第三者割当増資の場合、買い付け(割当)価格にはプレミアムが乗せられるのが一般的。その後は買い付け(割当)価格にサヤ寄せする形で株価が上昇することが多い。つまり、不公正な取引をすることにインセンティブが働きやすい。

悪用事例は今後も増加?

たとえば、今年2月に証券監視委が勧告したモルフォ(東証マザーズ上場)に関する事案は、従業員持ち株会がインサイダー取引に関与した初のケースで、違反行為者は10人に上った。同社は2015年12月に自動車部品大手のデンソーと資本業務提携を結ぶと公表したが、事前にその情報を知っていた役員1人と社員2人がモルフォ株を買い付けた。さらに、別の6人の社員が提携の事実を知りながら、持ち株会への拠出金の増額や新規入会を行った。

上場企業の従業員が個別の投資判断には基づかず、一定の計画に沿って継続的に自社株を購入する場合は、インサイダー取引の規制からは除外される。ただ、今回のケースは「個別の投資判断に基づかず」という要件を欠いていたため、適用除外の対象とはならなかった。

かねてROE重視の経営に関しては、将来の成長に必要なはずの費用まで削減したり、自社株買いを実施するために転換社債を発行したりする企業が増えているなどの弊害が指摘されてきた。むろん、インサイダー取引については悪用する側に非があるわけだが、足元の悪用事例の増加は官民挙げてのROE重視の姿勢がもたらした副産物と見ることもできそうだ。

猪澤 顕明 東洋経済 記者

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いざわ たかあき / Takaaki Izawa

1979年生まれ。慶應義塾大学卒業後、民放テレビ局の記者を経て、2006年に東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、ニュース編集部などに在籍。2017年に国内のFinTechベンチャーへ移り、経済系Webメディアの編集長として月間PVを就任1年で当初の7倍超に伸ばす。2020年に東洋経済へ復帰、「会社四季報オンライン」編集長に就任。2024年から「東洋経済オンライン」の有料会員ページを担当。

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