テレビの「苦肉の策」にガッカリ感が募る理由 「チャンネルを変えさせまい」はバレている

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しかし、視聴者は「チャンネルを変えさせない」というテレビ局サイドの狙いに気づいているため、むしろイメージダウン必至。番組のファンですら「録画してそのコーナーだけ見よう」という視聴率につながらない視聴方法を選択しているのが現実です。じらし演出は、すでに賞味期限切れの方法であり、自主規制するべき時期に来ているのではないでしょうか。

向き合うべきは他局ではなく視聴者

ここまで民放各局が「チャンネルを変えさせない」ために行っている策を挙げてきましたが、いずれもテレビに好意的な人に向けた保守的なものにすぎず、効果は薄いといわざるをえません。

しかし、CMまたぎも、ステーションブレイクレスも、フライングスタートも、名ばかりの合体特番も、少しずつ減りはじめているのは好材料。組織が大きく取引先が多いことからドラスティックな改革は難しいものの、各局のテレビマンたちは、「もはや小手先の策では通用しない」「むしろイメージダウンを招くリスクが高い」と気づきはじめているのです。

ただ、「質の高いコンテンツを作れば見てもらえるわけではない」「リアルタイムで見てもらえる可能性は低い」のが、テレビの難しいところ。「チャンネルを変えさせない」以前に「テレビをつけよう」と思わせるハードルがあり、さらに「面白い番組ほど録画されて視聴率が下がる」というジレンマを抱えているのです。

やはり視聴率をベースにしたビジネスモデルを変えることが最大の処方箋なのですが、「誰がどう動けば変えられるのか」、いまだ道筋は見えていません。「見たいときに、見たいものを、見たいデバイスで見る」オンデマンド思考が強く、パソコンやハードディスクなど機器の扱いに長けた現代人とどう向き合っていくのか。テレビ局同士が限られた視聴率を争うのではなく、テレビ業界が一枚岩になって視聴者と向き合わなければ、現状の厳しい流れを止めるのは難しいでしょう。

私がこのコラムを書いたのは、「民放各局が行う苦肉の策を視聴者に紹介したい」からではありません。「ここに挙げた策は、すでに多くの視聴者が気づいていることであり、やればやるほどイメージダウンする」という事実をテレビマンたちに受け止めてほしいからです。民放各局のコンテンツ制作力は、いまだ他メディアの追随を許さない高レベル。それだけに、苦肉の策に走らなくても、多くの人々を楽しませられるはずなのです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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