映画「ELLE」が描くパリマダムの強烈な日常 残酷な「弱肉強食」の世界を淡々と書いている
「恋愛に年齢がまったく関係ないなんて。実際は違うんじゃないの?」
「お一人さまは肩身が狭い、全方位カップル文化って、ホントのことなの??」
「あのお話は日本の女性をあおるために、誇張して書いてあるんでしょ? だって、あんな女の人たちが、そんじょそこらにいるなんて考えられないわ!」
そんな疑問をお持ちの方、「百聞は一見に如(し)かず」です。この映画をご覧ください。私が“パリマダ”で描いた世界観が、あまりにそのまんま再現されているのです。
はすっぱな言葉の投げ合いやブラックな会話の内容以上に、“まんま”であるのは猥雑(わいざつ)で濃密な空気感です。ギトギトした鴨の脂と安っぽいワイン、あるいはパルファムと体臭の入り交じったにおい。空気というよりは澱(おり)のようなものかもしれません。
なお、エロティックという惹句(じゃっく)に抱いたいくばくかの期待は、少しくガッカリさせられました。カラミはあっさりした食後感で、“プレーだよな”と思わせて、そこがまたフランス映画のあいまい表現かとも考えさせられます。日本の映画の場合は、“濡れ場”の表現そのままの、じっとり湿った表現がされますが、そんなものがきれいサッパリないドライなフランスなのであります。
恋愛感情を抱き、性的な関係を持つのに、世の中の常識やモラルが入り込むすき間はありません。性的嗜好も、登場人物たち皆が少しずつ壊れ屈折している“変態さん”。閉じられた世界における大人同士の合意のもと、法に触れなければ何でもアリ、と言わんばかりの駆け引きが繰り広げられます。
パリマダムの残酷な弱肉強食の世界
いくつになっても性愛現役。友人・隣人のパートナーまで誘惑する、節操ない恋愛観。元彼、元夫、セフレ、関係者各位が入り乱れ、一堂に会するパーティ。映画は、そんなパリマダたちの残酷無慈悲な弱肉強食の世界を、淡々と描きます。
以前の記事で、最近では、性的少数者を意味するLGBTにQ(自分がよくわからないQuestioning(クエスチョニング)と、個性的な人を意味するQueer(クィア)を合わせた概念)が加わった「LGBTQ」という呼び名が出てきて、これで「人類オールQ」と述べたことがあります(日本人はなぜ「男脳・女脳」に固執するのか)。この映画を見ると、“個性的”とは何なのかがわからなくなってきます。これこそがパリマダ世界の“オーディナリィ”なのです。
そういう意味でも、ヒロインのドラマティックな生い立ちと衝撃のラストを除けば、この映画で描かれているのはフランスにおけるパリマダの日常茶飯事。ヒロインに感情移入することもなく、かといって社会的に自立しているがゆえに嫌悪感もない。少しノワールでエレガント。そしてセンシュアルなフレンチフィルムでした。
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